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2026年コーポレートガバナンス・コードの改訂

著者等
田勢華也子加藤綾夏(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Corporate Legal Update ~コーポレートニュースレター~ No.49(2026年8月)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 2026年7月21日、コーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」といいます。)の改訂版※1が公表されました(以下「改訂版コード」といいます。)。本改訂は2021年6月以来、3回目の改訂となります。

 改訂版コードでは、CGコード策定時のプリンシプルベースの精神に立ち返り、CGコードの実質化を図る観点から、従来のCGコードの補充原則を廃止し、コンプライ・オア・エクスプレインの対象を基本原則及び原則に集約するとともに、新たに解釈指針が設けられました。また、改訂版コードでは、①成長投資に向けた取組み、②取締役会の機能強化に向けた取組み、及び③株主総会における権利行使のための有価証券報告書の定時株主総会前開示(以下「総会前開示」といいます。)の重要性が強調されています。

 各社は、自社の置かれた状況に応じて改訂版コードの趣旨・精神に沿った取組みを行い、2027年7月末日までに提出するコーポレート・ガバナンスに関する報告書(以下「コーポレートガバナンス報告書」といいます。)において、改訂版コードに沿って当該取組みの内容を開示することが求められます※2。本ニュースレターでは、改訂版コードのポイントについてご紹介します。

改訂の趣旨

 2015年のCGコード適用開始以降、CGコードの普及・定着状況については、毎年フォローアップ会議が開催されてきました※3。特に2023年からは、コーポレートガバナンス改革の実質化という観点から、今後の取組みに向けた考え方・具体的な取組内容をアクション・プログラムとして整理した上で、各施策に関するフォローアップが行われてきました。そうした中、2025年6月公表の「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」※4(以下「アクション・プログラム2025」といいます。)では、企業と投資家の自律的な意識改革に基づくコーポレートガバナンス改革の実質化を促しつつ、企業の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に真に寄与する「緊張感ある信頼関係」に基づく対話の促進に向けて、CGコードの3回目となる改訂を行うことが提言されました。当該提言を受けて、金融庁及び株式会社東京証券取引所(以下「東証」といいます。)では、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議(令和7年度)」(以下「有識者会議」といいます。)を設置し、3回に及ぶ同会議での議論及びパブリックコメントの募集※5を経て、2026年7月に改訂版コードが公表されました。

 今回の改訂では、CGコードの適用開始から約10年が経過し、コーポレートガバナンス改革に一定の進捗が見られる一方で、形式的な対応にとどまる例も見られることから、企業と投資家の双方の取組みにおけるコーポレートガバナンス改革の実質化が重要であるとの指摘を踏まえ、CGコードのプリンシプル化及びスリム化が図られました。これは、企業が中長期的な価値向上に向けた本質的な取組みに注力できるよう後押しする観点から行われたものであり、各社が、自社の置かれた状況に応じ、CGコードの各原則の趣旨・精神を踏まえた実効的なガバナンスを実践し、その内容を適切に説明することを促すものです。また、今回の改訂では、フォローアップ会議の中で議論されてきた個別の課題に照らして内容の整理も行われ、特にアクション・プログラム2025で取り上げられた①成長投資の促進、②取締役会の機能強化、及び③有価証券報告書の総会前開示について、後述のとおり、従来よりも踏み込んだ内容が規定されました※6

改訂版コードの概要

1. 体系の見直し

 改訂版コードでは、「コーポレートガバナンス・コードについて」と題する序文が創設されました。また、従来のCGコードの補充原則が廃止され、改訂版コードの規範は4つの基本原則及び26の原則から構成されます。これらに加えて、改訂版コードの全ての基本原則及び一部の原則には解釈指針が示されました。それぞれの詳細は以下のとおりです。

2. 序文の創設

 改訂版コードでは、CGコードの原案に付されていた序文※7を参考として、新たに序文が創設されました。序文は、CGコードの目的を示すとともに、その基本的な考え方であるプリンシプルベース・アプローチ及びコンプライ・オア・エクスプレインの趣旨を改めて明確化しています(下表1参照)。特に、企業によっては形式的に原則をコンプライすることよりも、自社の状況を踏まえてエクスプレインを選択することが適切な場合もあるとの考えが示され、その場合には、実施しない原則に係る自らの対応について、株主等のステークホルダーの理解が十分に得られるよう当該原則の趣旨・精神に照らして工夫し丁寧な説明を行うことが求められることが示されています。また、コンプライする場合であっても、株主等への十分な情報提供という観点から、コンプライとする理由について説明を行うことが望ましいとされ、コンプライ・オア・エクスプレインのいずれを選択した場合であっても「丁寧なエクスプレイン」を心がけることの重要性が強調されました。このほか、序文では、後述のとおり、新設された解釈指針の位置付けについても説明されています。

<表1> 改訂版コードの序文で示されたCGコードの目的と各アプローチの考え方

CGコードの目的
上場会社に対してガバナンスに関する適切な規律を求めることにより、健全な企業家精神を発揮しつつ経営手腕を振るえるような環境を整えることで、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ることを狙いとする。
プリンシプルベース・アプローチ
上場会社は、一見抽象的で大掴みな原則(プリンシプル)について、その形式的な記載・文言に囚われることなく、その趣旨・精神に照らして、自らの活動が当該原則に即しているか否かを判断することが求められる。
コンプライ・オア・エクスプレイン
上場会社は、原則を実施するか、実施しない理由を説明する。CGコードの各原則は法的拘束力を有する規範ではなく、会社の個別事情に照らして実施することが適切でないと考えるものがあれば、当該原則を「実施しない理由」を十分に説明することにより、一部の原則を実施しないことが考えられる。その置かれた状況によっては、各原則を形式的にコンプライするのではなく、むしろエクスプレインを積極的に選択すべき場合もある。

 序文が創設された背景には、各社によるCGコードへの対応が形式的なコンプライに傾き、各原則の趣旨・精神に基づく実質的なガバナンスの実践や投資家との対話が必ずしも十分ではないとの問題意識がありました。そのため、今回の改訂では、詳細な規定を整理してCGコードをスリム化する一方で、CGコードが本来想定しているプリンシプルベースの考え方を改めて示す必要があると考えられ、序文が設けられました。序文は、企業に対して画一的な対応を求めるのではなく、自社の実情(会社の業種、規模、事業特性、機関設計、会社を取り巻く環境等)に応じて原則の趣旨・精神を踏まえた実質的な対応を行うことを促すとともに、その内容を投資家に対して適切に説明することを求めるものと位置付けることができます※8

3. 補充原則の廃止・解釈指針の創設

 改訂版コードでは、従来のCGコードの細目にわたる規定ぶりが企業の負担となり、形式的な対応を助長しているのではないかという問題意識を踏まえ、CGコードのプリンシプル化・スリム化が図られました。すなわち、①引き続き重要性が認められ、ガバナンスの中核としてコンプライ・オア・エクスプレインの規律に付す必要がある従来の補充原則については、原則に格上げされ、②実務への浸透が進んだ箇所や法令等との重複が生じている箇所は削除されました。また、③現行実務等に照らし、コンプライ・オア・エクスプレインの対象とするよりも、他の原則等の補助的な位置付け※9としつつ、より実質的な対応を促進することが適当と考えられる事項は、解釈指針として再構成されました。解釈指針には、原則の背景となる考え方、目的のほか、原則を履行するためのベストプラクティスやグッドプラクティスと考えられる方策が記載されています。もっとも、上記「改訂の趣旨」に記載のとおり、各原則の趣旨・精神に沿った対応がなされる限りにおいては、各社にその具体的な対応方法は委ねられます※10

4. 改訂版コードの内容のポイント

 改訂版コード公表時にあわせて公表された「成長投資の促進に向けたコーポレートガバナンス・コードの改訂について」と題する資料(以下「趣旨説明資料」といいます。)※11では、改訂の留意事項として記載された①成長投資の促進、②取締役会の機能強化及び③有価証券報告書の総会前開示に関する取組みが特に重要であることが示されています。以下では、改訂版コード及び趣旨説明資料の内容を踏まえて、これら3点を概説します。

(1) 成長投資の促進

 改訂版コードでは、取締役会の役割・責務として、成長投資の促進に向けた取組みの重要性が明記されました。具体的には、例えば以下のとおりです。※12

  1. 会社の目指すところに向けた成長の道筋を構築すべきこと(原則4-1)
  2. 成長の実現に向けて成長投資(設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等)や事業ポートフォリオの見直し等の経営資源の配分に関し具体的に何を実行するのかを説明すべきこと(原則4-1)
  3. 自社の経営資源の配分が、成長の実現を目指して策定・公表した経営戦略や経営計画に照らし適切なものとなっているかについて不断に検証を行うべきであること(原則4-2(2))

 改訂版コード原則4-1の解釈指針では、取締役会が、自ら構築した成長の道筋を踏まえ、自社の資本コストを的確に把握した上で経営戦略や経営計画の策定・公表を行うべきであり、また、それらにおいて提示した収益計画や資本政策の基本的な方針及び収益力・資本効率等に関する目標を実現するため、成長投資や事業ポートフォリオの見直し等を行うなど、資本その他の経営資源を適切に配分すべきであると示されています。加えて、取締役会が、そのような経営資源の配分に関して具体的に何を実行するかについて、株主に分かりやすい言葉・論理で明確に説明を行うよう促しています。なお、具体的な説明方法の例として、キャッシュアロケーションやキャピタルアロケーションの開示による説明が考えられます※13

 経営資源の配分先には、様々な投資先(例えば、自社内部への投資として、設備・研究開発・人的資本・知的財産等の無形資産への投資等、外部への投資として、M&A・業務提携・スタートアップ出資への投資等)が考えられ、取締役会はこうした多様な投資機会があることを認識することが重要です。趣旨説明資料でも、自社の資本収益性、資本コストとともに、自社の成長フェーズや機会コスト等の様々な要素を考慮した上で、多様な投資先や株主還元も含めた資源配分戦略を検討する必要があると示されています。

 また、上記③に関連して、改訂版コード原則4-2の解釈指針では、経営資源の適切な配分に関し、不断に検証を行うべき内容として、「現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているか」が例示されています。投資等のための経営資源の配分に関しては、現預金を投資に有効活用できているかの検証・説明責任の明確化を検討する必要があると従前から指摘されていましたが、経営資源は現預金に限られるものではないことを踏まえ、改訂案における「現預金」という表現は、「現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源」との表現に調整されました。趣旨説明資料では、現預金を含めたこれらの資産を保有することは常に否定されるべきものではなく、会社が保有の必要性・合理性を説明できる限りにおいて、適正な水準の現預金等を保有することも経営資源の配分の一環として考えられることに留意が必要であるとしています。

 なお、改訂版コード原則4-1は「説明を行うべき」としている一方、原則4-2は「不断に検証を行うべき」としており、原則4-2では検証内容の説明・開示までは求められていません。もっとも、東証は、原則4-1と原則4-2は連続性のある内容であり、経営資源の配分に関するPDCAサイクルの中で、現状の配分の適切性の検証に基づき、今後何を実行するのかが決定され、それを具体的に説明する中で、過去の検証結果も必要に応じて間接的に説明がなされ得るとの考えを示しています※14

(2) 取締役会の機能強化

 上場会社の取締役会は、株主から負託された信任に応える受託者として、企業戦略等の大きな方向性を示すとともに、独立した客観的な立場から経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行う責務を負っています。改訂版コードでは、このような責務が実効的に果たされるように、取締役会の機能強化に向けた取組みが整理されました。その中でも強調されている点は、①独立社外取締役の果たすべき役割・責務、質・数の確保、独立性確保の重要性、及び②取締役を支援する重要な役割を果たす取締役会事務局の機能強化の推進です。

① 独立社外取締役に関する規定

 独立社外取締役の選任については、2026年7月時点でプライム上場企業の98.8%が3分の1以上の独立社外取締役を選任する※15など、形式は整ってきたとの評価があります。他方で、企業と一定の資本関係にある他社から連続的・継続的に派遣を受けている役員を独立役員として届け出ている事例もあり、実質的な独立性が確保されているかについては疑問が呈されていました。

 独立社外取締役は、経営環境の変化を的確に把握し、経営戦略への反映や取締役会における重要な意思決定を通じた経営監督において、重要な役割を果たすことが求められています。そして、幅広い経営経験を有する人材を取締役会に迎え、その知見を議論に反映させることは、取締役会の機能強化に資するものと期待されます。このような観点から、改訂版コードでは、実効性評価の適切な実施、選解任手続の整備及び研修等を通じた能力向上により、質・数の両面で十分な独立社外取締役を確保することの重要性が改めて指摘されました。具体的には、改訂版コード原則4-8から4-12までにおいて、独立社外取締役に関する原則が整理されています(下表2参照)。

<表2> 改訂版コードにおける独立社外取締役に関する原則

原則番号 規定事項 主な内容
原則4-8 役割・責務 独立社外取締役は、経営陣の選解任や重要事項の決定を通じた経営監督、利益相反の監督、少数株主やステークホルダーの意見の反映、及び中長期的な企業価値向上の観点からの助言を行うべき。
原則4-9 質の確保 取締役会における率直・活発で建設的な検討への貢献が期待できるなど、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上に寄与できる十分な資質を備えた人物を独立社外取締役候補として選定すべき。
原則4-10 数の確保 プライム市場では少なくとも取締役会の3分の1以上(支配株主を有する場合には過半数)を独立社外取締役とすべき。
原則4-11 独立性の確保 取締役会は、金融商品取引所の独立性基準を踏まえつつ、実質的な独立性を確保する観点から独立性判断基準を策定すべき。
原則4-12 機能発揮 独立社外取締役は、独立した客観的な立場に基づく情報交換・認識共有を相互に行うとともに、経営陣との連絡・調整や監査役との連携体制を整備すべき。

② 取締役会事務局に関する規定

 取締役会が独立した客観的な立場から経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うためには、取締役会の議論を実効的なものとすることが不可欠です。取締役会事務局(以下「事務局」といいます。)は、そのような議論を支える基盤として重要な役割を果たします。特に取締役会がモニタリング機能に特化するほど、監督と執行をつなぐ結節点として、事務局の機能は一層重要になります。

 改訂版コード原則4-14の解釈指針では、取締役会の審議の実質化・活性化を図るための取組みの例として、(ⅰ)取締役会の資料が、会日に十分に先立って共有されるようにする、(ii)取締役会の資料以外にも、必要に応じ、会社から取締役に対して十分な情報が提供されるようにする、(iii)年間の取締役会開催スケジュールや予想される審議事項について決定する、(iv)審議項目数や開催頻度を適切に設定する、(ⅴ)審議時間を十分に確保することが挙げられています。事務局は、取締役会の会議運営を担う事務方として、これらの取組みを行うことが期待されるほか、取締役会やその傘下の各委員会の会議体が実効性ある議論の場となるよう、当該会議体の果たすべき役割・責務に照らして適切な審議事項を定めるなど、能動的な運営を行うことが推奨されています。さらに、社外取締役・社外監査役の指示を受けて会社の情報を適確に提供できるよう社内との連絡・調整に当たる役割を担うことも期待されています。

 パブリックコメントでは、このような事務局機能を担う人材の確保や育成方法を課題として指摘する声がありましたが、東証は、そうした人材の育成や体制整備は各社で自律的に検討すべき事項であるとの見解を示しています※16。なお、改訂版コード原則4-14の解釈指針には、「取締役会事務局(コーポレートセクレタリー等)」との記載がありますが、東証は、「『コーポレートセクレタリー』という語は、取締役会事務局が、会議運営を行う単なる事務方としての役割のみならず、取締役会等の果たすべき役割・責務に照らし適切な審議事項を定めるなど、会議体の運営を能動的に行うことが望ましいことを理解しやすく示すための参考的な表現として用いています。なお、本コードは、他国で法令上求められているようなコーポレートセクレタリーの設置を一律に求めるものではありません。」と説明しています※17

③ <参考>取締役会の機能強化の取組みに関する事例集の公表

 金融庁は、2026年7月21日付で「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」※18を公表しており、改訂版コードとあわせて、企業の取組みの参考となります。例えば、上記②に関連するものとして、事務局と関係部署間での連携強化の方法や取締役会の事前準備に関する各社の取組みの例が挙げられており、パブコメ回答でも引用されています。

(3) 有価証券報告書の総会前開示

 改訂版コード原則1-2では、有価証券報告書には役員報酬及び政策保有株式等のガバナンス情報等、投資家の意思決定に有用かつ信頼性の高い情報が豊富に含まれていることから、有価証券報告書の総会前開示が、株主が総会において適切な判断を行うための環境整備の一例として明記されました※19※20。さらに、同原則の解釈指針(i)では、有価証券報告書は定時株主総会開催日の3週間以上前に提出されることが最も望ましいと記載されています。

 もっとも、現行法制下では、上場会社は、会社法上の事業報告等※21(計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書をいいます。)及び金融商品取引法上の有価証券報告書※22の両者を作成する義務があり、現在の企業実務からすれば、両者の作成時期は近接せざるを得ません※23。そして、両者には記載の重複が多い一方で、細目については相違点も少なくなく、その作成に相応の負担が生じています。このため、実務上は、まず会社法上必要な事業報告等を株主総会招集通知に合わせて整え、その後に有価証券報告書を最終化し開示するという流れをとらざるを得ない側面があります※24。こうした実情を踏まえ、改訂版コードの序文や趣旨説明資料では、現在一般化している企業実務を前提とすると、有価証券報告書を定時株主総会開催日の3週間以上前に開示することは必ずしも容易ではないとの認識の下、法務省とも連携しつつ、制度的な検討を並行して進める旨が当面の留意事項として記載されています。

 こうした問題意識を踏まえ、2026年4月に公表された会社法制見直しの中間試案では、事業報告等の内容を含む有価証券報告書を電子提供措置開始日までに提出した場合には、会社法上の事業報告等の作成を不要とする制度改正案※25が示されました。これにより、企業の開示書類作成の負担を軽減し、有価証券報告書の総会前開示を可能にすることが企図されています。

 パブリックコメントでは、3週間前開示について、現在検討されている会社法の改正と同じタイミングでCGコードに盛り込むべきとの意見も多くありましたが※26、改訂版コードは、3週間前開示を解釈指針において明記し、今後の方向性として示しています。なお、東証は、各社において有価証券報告書の総会前開示の実現が困難であり、株主による議決権行使のための適切な環境整備を十分に行うことができないと考える場合には、原則の趣旨・精神に照らしてエクスプレインを選択し、その理由を丁寧に説明すべきであると示しています※27

おわりに

 今回の改訂は、コーポレートガバナンスに関する形式的な遵守を求めるものではなく、その趣旨を踏まえ、各社において自律的な取組みを促すものです。また、そうした自律的な取組みは、自社内で完結するものではなく、株主(機関投資家)と会社との間の「目的を持った対話」を通じて、さらに充実させていくことが求められます。各社においては、本改訂を単なる制度対応として捉えるのではなく、持続的な成長と中長期的な企業価値向上に向けた、自社のガバナンスの在り方を見直す契機として活用することが期待されます。

脚注一覧

※2
改訂に伴うコーポレートガバナンス報告書の記載の詳細については、東証(本文で定義します。)「コーポレートガバナンス報告書の更新について」(2026年4月10日公表、同年7月21日更新)(https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/t13vrt000000sodn-att/t13vrt000000xny7.pdf)をご参照ください。

※3
金融庁及び東証を共同事務局とする「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」として開催されています。

※5
パブリックコメントの結果の詳細については、東証「『コーポレートガバナンス・コードの改訂について』に寄せられたパブリックコメントの結果について」(2026年7月21日)(https://www.jpx.co.jp/rules-participants/public-comment/detail/d1/t13vrt000000sodn-att/t13vrt000001jemf.pdf)をご参照ください。なお、以下では、当該資料上の回答を「パブコメ回答」といいます。

※6
改訂版コードでは、これら3点のほかにも、政策保有株式に関する規定の整理、株主との対話の方法に関する規定の整理、人材の多様性確保に関する規定の整理などの重要な改訂が行われました。もっとも、本ニュースレターでは、紙幅の都合上これらには立ち入りません。

※8
有識者会議では、各原則の趣旨・精神や解釈指針の位置付けを理解する上で、序文が重要な参照先となる旨が言及されており、実務上の判断に迷う場合には序文も踏まえて検討することが示唆されています。有識者会議第1回議事録〔上田委員発言〕等。

※9
有識者会議で議論された改訂案の序文には「解釈指針は原則と一体であり、本コードの一部をなすものである」との記載がありましたが、解釈指針が事実上コンプライの対象として受け止められるおそれがあるとの指摘があり、改訂版コードでは、当該文言は削除されました。

※10
改訂版コードの序文では、株主等のステークホルダー側の留意事項として、「本コードの各原則の文言・記載を表面的に捉え、その一部を実施していないことのみをもって、実効的なコーポレートガバナンスが実現されていない、と機械的に評価することは適切ではない」ことが示されました。当該箇所は、直接的にはコンプライ・オア・エクスプレインの対象となる原則について言及した箇所ですが、東証は、パブコメ回答において、その趣旨が解釈指針にも該当すると考えられる旨を示し、「解釈指針の文言・記載を表面的に捉え、その一つひとつに対応しているかをチェックボックス的に確認し、その一部を実施していないことのみをもって、実効的なコーポレートガバナンスが実現されていないと機械的に評価し、議決権行使や対話の場面などにおいて、形式的に反対したり対応を迫ったりすることは必ずしも適切ではないと考えられます」と説明しています(パブコメ回答No.95)。

※12
なお、東証は、2026年4月28日付で、「『資本コストや株価を意識した経営』に関する要請のアップデート」を公表しました。同資料では、「経営資源の適切な配分」を中心とした投資家の期待や取組みのポイントがまとめられており、以下で説明する改訂版コード原則4-1及び4-2の対応を行うにあたって参考になります。

※13
もっとも、東証はキャッシュアロケーションやキャピタルアロケーションの開示を一律に求めているわけではありません(パブコメ回答No.20、No.814)。

※14
パブコメ回答No.390、No.391等。

※15
東証「東証上場会社における 独⽴社外取締役の選任状況及び指名委員会・報酬委員会の設置状況」(2026年7月21日)4頁(https://www.jpx.co.jp/equities/listing/ind-executive/nlsgeu000005va0p-att/t13vrt000001jpn9.pdf)。

※16
パブコメ回答No.735等。

※17
パブコメ回答No.728等。

※19
現行法上、株式会社が有価証券報告書の総会前開示をすることに関する直接的な法律上の制約はありません。

※20
加えて、海外投資家から、日本は、有価証券報告書が株主総会後に開示される唯一の市場であり、極めて異例であること、また、それゆえ、グローバル投資家にとって、有価証券報告書の価値が限定的となっていることといった指摘があるほか、有価証券報告書の早期開示はスチュワードシップ活動においても役立つとの指摘がなされていることも、総会前開示が推奨されるに至った一因となっています(パブコメ回答No.203~No.222参照)。

※21
会社法第435条第2項。

※22
金融商品取引法第24条第1項。

※23
現在、多くの上場会社では、事業年度末及び議決権行使の基準日をいずれも3月31日に設定しています。基準日を定めて基準日株主を議決権の行使者とする場合、行使できる権利は当該基準日から3か月以内に行使されるものに限られていることから(会社法第124条第2項)、定時株主総会は基準日から3か月以内(6月30日まで)に開催する必要があります。もっとも実務上は、決算確定、監査、計算書類・事業報告の作成、取締役会決議、招集通知の準備等に一定期間を要するため、多くの会社の定時株主総会は、6月下旬に開催されています。他方、有価証券報告書は金融商品取引法上、事業年度終了後3か月以内の提出が義務付けられているため(金融商品取引法第24条第1項)、3月決算会社の提出期限は6月30日となります。その結果、事業報告等の作成時期と有価証券報告書の法定提出期限は近接することになります。

※24
2026年6月総会の調査結果によれば、総会の開催日前日までに有価証券報告書をEDINET開示した会社は、前年は全体の57.9%であったのに対し、2026年は全体の88.6%にのぼり、大幅に増加しています。しかし、そのうち72.9%は、総会日前日から4日前に集中しています。「株主総会概況―2026年6月総会2,192社」資料版商事法務508号77~78頁参照。

※25
法務省「会社法制(株式・株主総会等関係)の見直しに関する中間試案」30頁。(https://www.moj.go.jp/content/001460088.pdf

※26
パブコメ回答No.205、No.209、No.215等。

※27
パブコメ回答No.203~No.229。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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