1. はじめに
EU電池規則(Regulation (EU) 2023/1542)11条は、ポータブル電池及びLMT電池※1の取外し・交換可能性に関する義務を定めており、2027年2月18日から適用されます※2。欧州委員会は2026年7月14日、11条2項の対象製品を追加する委任規則C(2026) 5031※3を採択し、同日、11条全体の適用に関する改訂ガイダンスC(2026) 5032※4を公表しました。ただし、本稿執筆時点において、委任規則は欧州議会及び理事会による異議申立期間中であり、EU官報への掲載、正式な規則番号の付与及び発効は確認されていません※5。
委任規則は、エンドユーザーによる交換ではなく、独立した専門業者が電池を取外し・交換できれば足りる製品カテゴリーを追加するものです。
一方、改訂ガイダンスは、例外の判断だけでなく、互換電池、スペア電池及びソフトウェア制限を含む11条全体について実務的な説明を加えています。ただし、これは欧州委員会の見解を示すもので、法的拘束力はありません。
本稿では、EU向けに電池内蔵製品を供給する日本メーカーに関係し得る事項について、説明します。
2. 11条の基本ルール
11条1項の原則は、ポータブル電池を組み込んだ製品をEU市場に投入する者に対し、製品の寿命を通じて、エンドユーザーが電池全体を容易に取外し・交換できるようにすることを求めるものです。市販の工具で取り外せることが基本であり、特殊工具(specialised tool)が必要であれば製品に無償で付属させる必要があります。一般に入手できないメーカー専用工具(proprietary tool)、熱エネルギー又は溶剤による分解を必要とする構造は認められません。また、電池の使用、取外し及び交換に関する説明と安全情報を製品に添付し、エンドユーザーが理解しやすい形で公開ウェブサイト上に恒久的に掲載する必要があります。
11条2項は、この原則に対する部分的な例外です。同項に列挙された製品については、エンドユーザー自身による交換までは求められず、独立した専門業者(independent professional)が取外し・交換できれば足ります。しかし、電池を取外し・交換可能にする義務そのものがなくなるわけではありません。
11条3項は、電力供給の継続及び製品と電池との恒久的接続が、ユーザー及び製品の安全性、又はデータの収集・提供を主要機能とする製品のデータ完全性を確保するために必要な場合、11条1項を適用しないと定めています。
| 区分 |
主な対象・条件 |
取外し・交換を行える者 |
規定の内容 |
11条1項 (原則) |
ポータブル電池内蔵製品 |
エンドユーザー |
電池全体を容易に取外し・交換可能にする必要 |
11条2項 (部分的例外) |
列挙された一定の製品 |
独立した専門業者 |
エンドユーザーによる取外し・交換可能性までは不要 |
11条3項 (11条1項不適用) |
継続的電力供給・恒久接続が安全性又はデータ完全性に必要 |
― |
11条1項の義務を適用しない |
LMT電池については、11条5項により、独立した専門業者が、電池パック全体だけでなく、電池パックに含まれる個別セルも製品寿命中に取外し・交換できる必要があります※6。
3. 11条2項の例外―追加カテゴリーと例外該当性の判断
委任規則が発効すると、従来の湿潤環境用機器及び一定の医療関連製品に加え、主として、①一定の小型又は密封型ウェアラブル製品、②2030年7月31日までの一定の充電式電池内蔵電動玩具、③食品調理時の食品接触用ワイヤレス温度計プローブ、④爆発性雰囲気で使用される機器等を対象とするATEX指令(Directive 2014/34/EU)の対象製品、⑤皮下投薬用の装着型システム、及び⑥農業・建設機械の屋根に設置され、振動、粉じん及び湿潤条件にさらされるテレマティクス機器が、11条2項の対象に加わります。ただし、上記のカテゴリーの多くについては、取外し・交換を独立した専門業者に限定することがユーザー及び製品の安全確保に必要な場合に限り、11条1項の例外となります。
多くの製品に共通して参考になるのが、湿潤環境用機器に関する改訂ガイダンスの考え方です。単に防水性能を備え、湿潤環境でも使用できるというだけでは、例外に該当しません。改訂ガイダンスは、例外を適用するための指標として、製品が湿潤環境で作動することを主目的として設計され、その環境が通常の主たる使用環境であり、洗浄又はすすぎを予定していることを挙げています。さらに、改訂ガイダンスは、エンドユーザーによる電池交換がユーザー又は製品の安全性を損なうこと、及び、現状の技術では、安全性又は製品の性能・機能を大きく損なわずに設計変更する方法がないことについて、EU市場への投入時の製品文書に根拠があることを、例外該当性を判断するための指標として示しています※7。そのため、例外に依拠するメーカーにとっては、EU市場への投入後に理由を組み立てるのではなく、設計段階で、安全性及び設計変更可能性を評価し、記録化しておくことが実務上有用です。
なお、IP rating(防じん・防水に関する保護等級)は、想定される水への暴露を把握する参考にはなります。しかし、IP ratingは筐体の水や粉じんへの耐性を示すものであり、その環境が製品の主たる使用環境か、又は安全性や製品の性能・機能を大きく損なわずに設計変更が可能かまでは示しません。そのため、改訂ガイダンスは、IP ratingだけでは例外該当性を立証できないとしています。
ウェアラブル製品の例外該当性については、二つの検討経路があります。第一に、湿潤環境での使用を主目的とし、上記の条件を満たす場合には、湿潤環境用機器として11条2項の対象となり得ます。第二に、湿潤環境用機器に該当しなくても、ユーザーが電池にアクセスすると安全性、耐久性又は耐水性が損なわれ、かつ、小さ過ぎて安全な交換が困難であるか、機能維持のため小型の密封筐体を必要とする場合には、委任規則で追加される別の例外に該当し得ます※8。したがって、ウェアラブル製品については、製品ごとにどの要件を満たすかを確認する必要があります。
4. 物理的に電池を外せるようにするだけでは足りない
(1) 互換電池
11条6項は、「交換可能」といえるためには、取り外した電池を、製品の機能、性能又は安全性を損なわない別の互換電池(compatible battery)に置き換えられることを求めています。したがって、筐体を開けて電池を物理的に取り出すことができるだけでは、11条への対応は十分ではありません。
改訂ガイダンスは、製品に当初組み込まれた電池だけでなく、互換電池も使用できるよう、電池及び製品を設計すべきと説明しています※9。また、改訂ガイダンスは、取扱説明書その他の文書に、交換手順に加えて、安全に使用できる互換電池が満たすべき技術仕様を記載することを強く推奨しています。
(2) スペア電池及び締結部品
11条7項は、ポータブル電池又はLMT電池を組み込んだ製品について、当該製品モデルの最後の個体をEU市場に投入した後、最低5年間、電池をスペア部品として提供することを求めています。提供先は独立した専門業者及びエンドユーザーであり、価格は合理的かつ非差別的でなければなりません。
さらに、電池の取外し・再組立てに必要な締結部品(fastener)が再利用できない場合、改訂ガイダンスは、その締結部品もスペア部品として提供すべきと説明しています※10。交換後に製品を安全に再組立てできなければ、実質的な交換可能性が失われることになるため、電池の供給期間及び価格設定に加え、交換に必要な締結部品の供給体制についても確認することが考えられます。
(3) ソフトウェア及びparts-pairing
11条8項は、ポータブル電池若しくはLMT電池の別の互換電池への交換、又はこれらの電池の主要部品の別の主要部品への交換を、ソフトウェアによって妨げてはならないと定めています。これについて改訂ガイダンスは、製品の正常な作動及び安全性を確保するため、製品と交換電池との通信にソフトウェアを用いること自体は可能であるとする一方、そのソフトウェアが互換電池への交換を妨げてはならないと説明しています※11。
改訂ガイダンスは、交換を妨げるソフトウェアの例として、電池を含むスペア部品をソフトウェアで特定の製品個体と紐付けるparts-pairingを挙げています。このような仕組みにより、スペア部品を製品と再度遠隔でペアリングしなければ、スペア部品が受け入れられず、又は一部の機能が失われることがあると説明しています。改訂ガイダンス上、非純正の交換用電池を使用している旨をユーザーに通知することは可能とされていますが、その通知が製品若しくは互換電池の機能又はユーザー体験に影響を与えてはならないとされています。
このため、11条への対応では、物理的な交換可能性だけでなく、交換後の互換電池の使用を妨げるソフトウェア上の制限がないかも確認する必要があります。
5. 2027年2月18日に向けて確認すべき事項
EU向けに電池内蔵製品を供給する日本メーカーは、2027年2月18日の11条の適用開始に向けて、少なくとも次の事項を、製品単位で確認することが推奨されます。
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対象製品の洗出し
EU向け製品に組み込まれた電池を把握し、ポータブル電池又はLMT電池に該当するかを確認します。
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適用されるルール・例外の確認
ポータブル電池については、11条1項の原則、11条2項の部分的例外又は11条3項により11条1項が適用されない場合のいずれに該当するかを確認します。LMT電池については、11条5項により、独立した専門業者が、電池パック全体だけでなく、電池パックに含まれる個別セルも製品寿命中に取外し・交換できるかを確認します。
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例外又は不適用に依拠する場合の技術的根拠の確認・文書化
11条2項の例外又は11条3項の不適用に依拠する場合は、それぞれの要件を技術的に評価し、判断根拠を文書化します。特に11条2項(a)の湿潤環境用機器については、製品の主たる使用環境、エンドユーザーによる電池交換が安全性に与える影響、設計変更の可能性等を確認します。
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交換・修理方法の確認
電池の取外し・交換の手順、必要な工具、説明書及び安全情報を確認します。独立した専門業者による交換が前提となる製品については、その交換を実施できる体制についても確認します。
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スペア電池・締結部品・互換電池への対応の確認
スペア電池の供給期間及び価格を含む供給体制、再利用できない締結部品の供給並びに互換電池への交換可能性を確認します。互換電池については、必要に応じて、安全に使用できる電池の技術仕様も整理します。
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ソフトウェアによる交換制限の確認
parts-pairing等のソフトウェア上の仕組みにより、交換した互換電池が製品に受け入れられず、又は交換後に機能の一部が利用できなくなるなど、互換電池への交換を妨げることがないかを確認します。
2027年2月18日より前に同一モデルの製品がEU市場に投入されていたとしても、同日以降にEU市場に初めて投入される個々の製品については、11条の要求事項への対応が必要になると考えられるため※12、同日前後の在庫及び流通計画についても確認が必要です。
上記のとおり、11条の要求事項への対応は、電池を物理的に取り外せるようにすることだけではありません。製品の構造及び用途に加え、互換電池への交換可能性、スペア電池の供給、ソフトウェア上の制限の有無、個々の製品がEU市場に初めて投入される時期等について、関係部門で確認する必要があります。
脚注一覧
※1
電動自転車や電動スクーター等の軽量輸送手段(light means of transport)の駆動用電池(3条1項11号参照)。以下、EU電池規則の条文番号については、規則名(EU電池規則)を省略します。
※2
Regulation (EU) 2023/1542 of the European Parliament and of the Council of 12 July 2023 concerning batteries and waste batteries, OJ L 191, 28.7.2023, 11条及び96条2項(a)。なお、理事会の交渉方針では、後述の委任規則により11条2項の例外対象として新たに追加される製品について、11条の適用を2028年8月18日まで延期することが提案されています(Council of the European Union, 11147/26, 附属書1条(3a))。
※3
European Commission, C(2026) 5031 final, Commission Delegated Regulation (EU) …/… of 14 July 2026 on supplementing Regulation (EU) 2023/1542 of the European Parliament and of the Council as regards derogations for the removability and replaceability of portable batteries.
※4
European Commission, C(2026) 5032 final, Commission Notice, Commission guidelines to facilitate the harmonised application of provisions on the removability and replaceability of portable and LMT batteries in Regulation (EU) 2023/1542.
※5
異議申立期間の終了予定日は2026年10月14日ですが、欧州議会又は理事会の発意により当該期間は2か月延長され得ます(89条6項)。
※6
なお、欧州委員会は、11条5項について、LMT電池パック内の取外し・交換可能性を求める単位を個別セルから個別モジュールに変更する改正案を提案しています(COM(2025) 981 final, 1条(2))。この改正案は、本稿執筆時点では成立していません。
※8
C(2026) 5031, 1条(EU電池規則改正後の11条2項(c)); 改訂ガイダンス3.2.3項。
※12
96条2項(a); European Commission, The ‘Blue Guide’ on the implementation of EU product rules 2022, 2022/C 247/01, 2.3項参照。なお、改訂ガイダンス5.2項は、11条7項のスペア電池供給義務との関係で、2027年2月18日前にEU市場に投入された製品には同義務が適用されないとの見解を示しています。