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ニュースレター

予測市場(Prediction Markets)を巡る法規制の現在地~米国の最新動向と日本法上の整理~

著者等
加藤志郎、正井勇、布施伸一郎(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Media, Entertainment and Sports Legal Update メディア・エンタテインメント・スポーツニュースレター~ No.4/NO&T U.S. Law Update ~米国最新法律情報~ No.168(2026年10月)
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特集
スポーツビジネス法務最前線

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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

1. はじめに

 昨今、アメリカを中心に、「将来の事象の成否を対象とする契約(以下「イベント契約」)を売買する」取引プラットフォームである予測市場(Prediction Markets)サービスの利用が急激に広がっています(以下、イベント契約を売買する市場を「予測市場」、予測市場を提供する運営主体を「予測市場事業者」、予測市場事業者が提供する予測市場に関するサービスを「予測市場サービス」)。予測市場では、明日の天気のような日常的な事象から、選挙結果や世界的なスポーツイベントの試合結果等の世間的に注目を浴びる特定のイベントに至るまで様々な事象の成否に関するイベント契約が売買の対象となっています。特にアメリカでは、消費者の目線からは、予測市場とスポーツベッティングとの間の区別は曖昧であり、スポーツベッティングが合法化されていない(禁止されている)州(カリフォルニア州、テキサス州等)においては、予測市場が実質的にその代替として機能している状況にあると指摘されています。直近では、ワールドカップが開催された2026年6月には予測市場サービスの主要2社の月間取引金額が計400億ドルを超えた※1ように、予測市場サービスの盛り上がりが注目されました。日本においても、主要な予測市場事業者が予測市場サービスの日本進出を企図している旨の報道がなされた※2ほか、日本の関連法令に合わせたサービス設計を行っている事業者※3が現れています。

 一方で、予測市場の法的規制については、その法的性質(金融デリバティブ取引か、賭博か)、規制態様(許可制か、一切不可か。また、アメリカにおいては連邦法か、州法か)、消費者保護といった多種多様な論点が存在し、それぞれについて各国で活発な議論がなされています。

 本稿では、予測市場の仕組みや各国の現状、特にアメリカ各州での訴訟や新たな連邦規則の制定等の動きが活発なアメリカの状況について概説した上で、日本法上の整理や、日本でのサービス展開に関してあり得るアプローチについて検討します。

2. 予測市場の仕組み

 予測市場とは、将来の事象が起きるか否かを対象とするイベント契約を、参加者間で売買する取引プラットフォームです。取引の対象は、典型的には、「ある事象が期限までに実現するか」という問いに対する「YES」または「NO」のポジションです。参加者は、1単位あたり0ドルから1ドルの間で変動する価格でポジションを購入し、事象が確定すると、的中した側のポジションは1単位あたり1ドルで償還され、外れた側のポジションは無価値となります。また、参加者は、特定の事象の発生の確定を待たず、保有するポジションを売買することができます。運営者の提示する条件に従って賭け、結果を待つというスポーツベッティングやスポーツ振興くじの仕組みとは異なり、予測市場における取引は、市場で価格が形成され、反対売買が可能であるという点で、金融市場の取引に近い構造を持っていると考えられます。

 各ポジションの価格は、プラットフォームの運営者により決定されるのではなく、参加者間の売買注文の需給によって形成され、参加者の事象の見通しの変化に応じて絶えず変動します。結果として、十分な参加者が存在する市場においては、予測市場の特定の事象に関するポジションの価格は、当該事象が実現する可能性の参加者による予測を反映しているといえます。例えば、ある事象の実現の「YES」のポジションの1単位あたりの価格が0.6ドルであれば、参加者は当該事象の実現可能性を60%程度と見ている、と考えられます。

 上記のような性格から、予測市場は、単なる娯楽としての賭博と比較すると、将来の事象の確率予想の機能があるといわれ、また、参加者が金銭的リターンを期待して行動するため、真剣に予測するインセンティブが働き、通常の市場調査や世論調査と比較して、事象の発生確率について正確な予想が可能となるとの指摘があります。加えて、取引の対象となる事項が金融指標等に限られないため、従来のヘッジ取引では対処が困難だった事項についてもリスクヘッジが可能であるといわれています。

 決済手段は予測市場事業者により多様で、アメリカドルだけではなく、ステーブルコインによる入金・決済を行う事業者も見られます。

3. アメリカの現状

a. 概要

 アメリカでは、デリバティブ取引は、商品取引所法(Commodity Exchange Act、以下「CEA」)に基づき、商品先物取引委員会(Commodity Futures Trading Commission、以下「CFTC」)により規制されています。度重なる法改正によりCEAの適用範囲は段階的に広がっており、2010年のいわゆるDodd-Frank法※4により、スワップ取引がCEAの対象としてCFTCの独占的な管轄に服することとされました。

 Dodd-Frank法によるCEAの改正に伴い、CEA上で明確な定義がなされていなかったスワップ取引(swap)について、「特定のイベントや偶発的事象の発生、不発生、または発生の程度(潜在的な財務、経済、または商業的影響を伴うもの)に依存して支払等が行われる契約」※5(すなわちイベント契約)を明示的に含む形で幅広に定義されました。あわせて、イベント契約を含む事象の発生等に基づく一定の契約・取引のうち、テロや戦争、”gaming”等に関わる一定の類型について、CFTCが公益に反すると判断する場合には上場(予測市場サービスの文脈では、取引所である予測市場事業者が特定の種類のイベント契約を取引の対象として取り扱うこと)を禁止できるとする規定※6が置かれました。これらにより、イベント契約は、CFTCによるCEAに基づくデリバティブ取引に関する規制の射程に入り、連邦法に基づき予測市場サービスを提供する事業者は、CFTCから指定を受け、連邦規制下の取引所として運営されることとなりました。

 近年の裁判所の判断も、予測市場の拡大を後押ししています。連邦裁判所は、選挙結果を対象とするイベント契約について、上記の上場禁止の対象となる”gaming”等の類型に該当しないとの判断を示しました。これらの判断も背景として、州レベルでの規制ではなく連邦法であるCEAに基づく予測市場サービスの提供が進んでいます。もっとも、現在も予測市場サービスの提供に関する法的整理の根幹に関わる訴訟が複数提起され、各裁判所で異なる判断が示されていることもあり、今後の動向が注目されます。

 近年の司法判断等も踏まえ、CFTCは予測市場サービスを連邦規制の枠内で監督する方向で検討を進めています。CFTCは、2026年6月に、個別のイベント契約の上場を審査する枠組みやCEA下で取引が禁止される”gaming”の定義を定める規則案を公表しています※7。

 以下では、まず予測市場事業者を当事者とする訴訟の状況を概観し(下記b.参照)、次に、規制当局間、すなわちCFTCと州との間の対立の激化について触れます(下記c.参照)。

b. 予測市場事業者を当事者とする訴訟の現状

(i) 連邦裁判所における判断

 予測市場に関する活発な議論や訴訟は、連邦裁判所において、規制当局であるCFTCの規制権限を限定的に解する判断がなされたことに端を発します。CFTCは、2024年の連邦議会選挙の結果を対象とするイベント契約について、CFTCが上場の禁止権限を有する”gaming”に関わる契約である(上記a.参照)として、予測市場事業者による当該契約の上場を認めない決定をしました。しかし、2024年9月、コロンビア特別区連邦地裁は、選挙の結果を対象とするイベント契約は、”gaming”の類型に該当しないとして、当該決定を違法と判断しました※8。CFTCは、当該判断に対して控訴しましたが、2025年5月に控訴を取り下げました。

 また、各州の賭博規制当局の判断に関する訴訟も相次いでいます。予測市場事業者がスポーツの試合結果を対象とするイベント契約の提供を開始したことに対し、各州の賭博規制当局が、当該契約の提供は、州法上必要な許認可を得ない無免許でのスポーツベッティングを行うものであるとして、当該契約の提供に関して停止命令等の措置を講じました。これに対し、予測市場事業者は、各州を相手に連邦地裁に提訴しています。訴訟ごとに進行の程度や論点は異なりますが、大まかには、スポーツ関連のイベント契約が、CEA上のスワップ取引に該当するか否かが主な論点となっています。スポーツ関連のイベント契約がCEA上のスワップ取引に該当する場合には、当該取引については連邦法に基づくCFTCの排他的管轄が及び、州の賭博規制の適用が排除されると考えられます。各州の訴訟について、州や審級によってスポーツ関連のイベント契約のスワップ取引該当性等の判断は分かれています。

 特に、ニュージャージー州に係る事件について、第3巡回区連邦控訴裁判所がスポーツ関連のイベント契約のスワップ取引該当性と州賭博規制に対する連邦法の優先を認める判断を示した※9一方で、ネバダ州に係る事件並びにオハイオ州及びテネシー州に係る事件について、第9巡回区連邦控訴裁判所及び第6巡回区連邦控訴裁判所が正反対の結論を示した※10点は注目に値します。第9巡回区連邦控訴裁判所は、スポーツの試合結果を対象とするイベント契約は、CEA上のスワップ取引に該当しない可能性が高いとして、CEAがネバダ州の賭博規制に優先することの蓋然性が示されていないと判断しました。また、第6巡回区連邦控訴裁判所は、スポーツ関連のイベント契約がCEA上のスワップ取引に該当しないと判断するとともに、仮にスワップ取引に該当するとしても連邦法はオハイオ州及びテネシー州の賭博規制に優先しないと判断しました。これにより、連邦控訴裁判所の判断は、州側に有利なものが2件、連邦法の優先を認めたものが1件と分かれる状況になっています。連邦控訴審裁判所の判断が真っ向から対立する状態となったことから、訴訟を通じた統一的な解決には、連邦最高裁による判断が必要とされます。

 ニュージャージー州は、2026年9月2日、CEAが州の賭博規制に優先される旨の第3巡回区連邦控訴裁判所の判断について連邦最高裁に上告受理の申立てを行いました※11。他方、予測市場事業者は、同月9日、CEAの適用を否定した第9巡回区連邦控訴裁判所に対して、大法廷(en banc)による再審理を申し立てています※12。

 予測市場事業者と州の双方が異なる経路で控訴審判断の見直しを図る状況にあり、連邦最高裁が申立てを受理するか否かが、当面の最大の注目点です。

(ii) 州裁判所における判断

 州裁判所では、イベント契約に対して連邦法であるCEAの適用があるか、各州の州法の適用があるかについての訴訟が数多く提起されており、各州裁判所においても判断が積み重なり始めています。

 マサチューセッツ州では、2025年9月、同州の司法長官が、予測市場事業者が州法上の無免許スポーツベッティングを行ったとして、予測市場事業者に対して訴えを提起しました※13。同州の第一審裁判所は州側の主張を認めて、同州内でのスポーツ関連のイベント契約の提供を仮に差し止めました。当該予測市場事業者は上訴し、同州での上訴審の判断が待たれています。

 ニューヨーク州では、2026年7月、同州の司法長官が、無免許賭博や未成年者の利用による被害等を理由として、予測市場事業者に対する大規模な訴えを提起しました※14。

 ワシントン州では、2026年3月、同州の司法長官が、イベント契約が違法な賭博に該当するとして、予測市場事業者に対して訴えを提起しました。第一審裁判所は、2026年8月、スポーツ・選挙等を対象とするイベント契約は、州法上の違法な賭博に当たる一方、経済指標や金融データを対象とするイベント契約は州法に違反しないとして、商品カテゴリごとに結論を分ける判断を示しました※15。

c. CFTCと各州の対立の激化

 予測市場事業者とCFTC・州との間の裁判にとどまらず、CFTCと各州の間でも、訴訟の内外で対立が激化しています。

 CFTCは、2026年6月、イベント契約の上場審査に関する規則案を公表しました※16。

 同案は、対象契約が、①除外商品(excluded commodity)を参照するイベント契約に該当するか、②”gaming”等の列挙行為に関わるか、③公益に反するか、という3段階の審査枠組みを示すとともに、従来定義のなかった”gaming”の定義規定を新設する内容です。このCFTCの規則案に対し、複数州の司法長官が連名で、スポーツに関するイベント契約についてCFTCの管轄権を否定する内容の書簡を提出しています※17。

 権限行使の場面でも対立が見られます。CFTCは、2026年7月※18から8月※19にかけて、市場の緊急事態に対応するための緊急権限を発動し、ミシガン州やニューヨーク州の州裁判所による予測市場事業者に対するサービス提供の停止命令等にかかわらず、予測市場事業者に対して取引所としての機能の継続を命じる緊急命令を発出しました。連邦機関が、州裁判所の命令に服さないよう規制対象の事業者に命じる形となったこの措置に対しては、裁判所の側から、裁判所の判断と抵触する命令を発する権限は規制当局にないとする判断も示されており※20、CFTCと州の間の対立が表面化しています。

 CFTCと州の間の裁判も複数提起されています。ミネソタ州が予測市場の提供を禁止する州法を成立させたのに対し、CFTCは直ちに同州を提訴しています※21。また、CFTCは、司法省と共同で、ケンタッキー州等の複数の州を相手に、州の執行が連邦法に反することの確認を求める訴訟を提起しています※22。

d. 金融商品を前提にした実務の方向性(スタッフレター・インサイダー取引)

 CFTCは、イベント契約が金融商品であることを前提にした表示・販促面の規律を試みています。具体的には、スタッフレターにより、①イベント契約の価格を、賭博を連想させるような方式であるオッズ形式で表示するマーケティングは、参加者に取引の性質を誤認させる行為に当たりうると警告した※23ほか、②取引所によるインセンティブプログラムを行う際の留意点として、報酬の有無や額が偶然に左右される抽選型・カジノ型の販促手法は用いるべきでないとの考え方を示しています※24。

 インサイダー取引への対応も始まっています。2026年4月には、非公開情報を利用したイベント契約の取引について、CFTCによる執行事案が公表されました※25。もっとも、同事案は軍人としての義務違反に基づくものであり、証券規制のような包括的なインサイダー取引規制がイベント契約に関して整備されているわけではありません。

 総じて、CFTCによる規制は、予測市場でのイベント契約の取引に関して、賭博ではなく金融商品であるという整理を貫徹する方向で進められていると評価できます。

e. その他

 連邦議会では、行政の流れとは逆方向の動きも見られます。2026年3月、スポーツ関連のイベント契約をCFTCの管轄から外し、州の賭博規制に委ねることを内容とする超党派法案※26が提出されました。

 また、内部情報を利用した取引への対応として、政府関係者等による予測市場での取引を規制する法案※27や、軍事作戦に関する予測市場でのインサイダー取引の疑いについて国防総省監察官に調査・報告を求める法案※28の提出も相次いでおり、連邦議会の関心は、管轄の所在からインテグリティへと広がりつつあります。

 事業者側では、既存のスポーツベッティングの大手事業者が予測市場への参入を発表しているほか、州の賭博免許の下で取引所を運営してきた事業者が州免許事業を閉鎖してCFTCの登録に切り替える例もあり※29、規制の性質決定がビジネスモデルの選択を左右する状況となっています。

4. 諸外国の現状

 アメリカ以外の国々では、予測市場サービスを賭博として扱う対応が主流です。ヨーロッパでは、ポルトガルの賭博規制当局が、2026年1月、無免許のオンライン賭博に当たるとして、大手予測市場事業者に国内からの撤退を命じたとの報道があった※30ほか、ハンガリー※31でもアクセス遮断等の措置が講じられ、オランダの規制当局も、制裁金を警告して同事業者に国内利用者の遮断を求めました。イギリスの賭博規制当局は、予測市場事業者を既存の賭博規制上のベッティング仲介業者等に近いものと整理した上で、賭博規制の免許制の枠内で対応しています※32。

 こうした対応はヨーロッパにとどまりません。オーストラリアの通信・メディア規制当局は、2025年8月、違法なオンライン賭博に当たるとして大手予測市場サービスへのアクセス遮断を実施※33し、韓国の放送メディア通信審議委員会も、2026年8月、国内利用者に違法な賭博環境を提供しているとして同様の遮断を決定した旨の報道が見られます※34。

 将来の事象の結果に応じて財産上の利益の得喪が生じる以上、既存の賭博規制が適用されるというのが各国の基本的な立場であり、同一の事業モデルについて、アメリカでは金融デリバティブとしての規制、その他の主要国では賭博としての規制という、対照的な扱いがなされている状況にあります。

5. 日本法上の整理

a. 現行法令上の法的評価

 現在アメリカで広く利用されている予測市場サービスの形式、すなわち、法定通貨または暗号資産を入金し、将来の事象の成否に関する特定のポジションを購入し、将来の事象の成否に応じて一定の払戻しを受ける形式のサービス(以下「金銭型予測市場サービス」)を日本で実現する場合には、第一に、刑法上の賭博罪や賭博場開帳図利罪との関係が問題になります。現行法上、賭博罪や賭博場開帳図利罪との関係から適法な金銭型予測市場サービスの提供は容易ではないと考えられます。

 すなわち、日本国内のサービスの利用者については、賭博罪(刑法185条)の主要な構成要件(偶然の勝敗に関するものであること、財物を賭けてその得喪を争うこと)のいずれも否定しがたいと考えられます。構成要件該当事実の一部が日本国内で発生した場合には、国内犯として処罰の対象となると解されていることからすれば、予測市場事業者が日本国内にあるか否かは賭博罪の成否に関係しないと考えられ、国外の事業者が提供する金銭型予測市場サービスを利用した場合も、賭博罪が成立し得ると思われます(日本政府は、「一般論としては、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられ」る旨の答弁書を国会に提出しており※35、実際に、日本の警察は海外のオンラインカジノに参加して賭博行為を行った者の検挙を行っています※36。)。

 また、予測市場事業者についても、金銭型予測市場サービスの提供がユーザーの賭博罪の幇助や教唆に該当する可能性や、賭博場開帳図利罪(刑法186条2項)の構成要件を満たす可能性があると考えられます。

 したがって、日本国内で類似のサービスの提供が許容されるためには、まずは、賭博罪や賭博場開帳図利罪との関係を整理する必要があります。具体的には、明示的に金銭型予測市場サービスを適法とする内容の法令改正を行うことのほかに、金銭型予測市場サービスの利用が形式的に賭博罪の構成要件を満たすとしても、違法性が阻却される等の理由で処罰されないとの整理を目指すアプローチ(b.及びc.にて詳述します。)や、サービスの仕組みを工夫することで予測市場サービスの利用が賭博に該当しない方法を模索するアプローチ(d.にて詳述します。)等が考えられます。

 また、仮に賭博罪や賭博場開帳図利罪との関係が整理されたとしても、予測市場サービスを念頭に置いた規制が不十分である点が課題となります。特に、ユーザーの保護、株式市場等であれば金融商品取引法(以下「金商法」)上規制されるインサイダー取引の取扱い、犯罪収益の移転等の防止等の問題が残ります。

b. 金融商品としての整理

 アメリカと同様、金銭型予測市場サービスを金融デリバティブと整理し、追加の立法的な手当てなくサービスを展開することはできるでしょうか。

 現在では一般的な金融商品と認識されている金融デリバティブについても、その経済的価値が将来の不確定な価格変動等(偶然の事由)により左右される取引であることから、形式上賭博罪の構成要件に該当し得ることが古くから指摘されています。もっとも、金融デリバティブ取引は、リスクヘッジ等の経済的機能を有することから、そのうち社会的に正当性を有すると考えられるものについて、賭博罪の適用を排除する理論的枠組みが議論されてきました※37。具体的な方向性としては、(1)一定の金融デリバティブ取引についてはそもそも賭博罪の構成要件段階で「賭博」に該当しないと解釈するもの、(2)当該取引が賭博罪の構成要件に該当し得ることを前提に、正当行為(刑法35条)、すなわち、(i)成文の法律、命令に基づく権利または義務の行使として行われる法令行為(同条前段)に当たるとするものや、(ii)国民一般の慣習及び法令の精神上正当であるとされる業務や、社会的に確立した業務行為について、社会観念上相当と認められる正当業務行為(同条後段)として違法性が阻却されるとするものがあります※38。

 以上の金融デリバティブに関する議論を参考に、金銭型予測市場サービスについて考察します。

  • そもそも金銭型予測市場サービスは賭博に該当しないとの解釈((1))は、前述のとおりやや難しいと思われます。
  • 法令行為として許容されるとする解釈((2)(i))を取るには、金銭型予測市場サービスを許容した法令上の根拠を要します。現時点では、金銭型予測市場サービスを具体的に想定した法令上の根拠と思われるものは存在しません。また、金銭型予測市場サービスで行われる取引が金商法上のデリバティブ取引に該当するとの整理を検討する場合は、その参照対象が一つのハードルになると考えられます。デリバティブ取引の参照対象は、金商法上の金融商品または金融指標に限定されている(金商法2条21項〜23項)ところ、金融商品及び金融指標の定義は、あらゆる事象をカバーするほど広範ではなく(同条24項、25項)※39、とりわけスポーツ関連の予測市場については、取引対象が金商法上の金融指標に該当するとは考えにくいと思われます。したがって、あらゆる事象を取引の対象とする金銭型予測市場サービスをデリバティブ取引と解釈することはできないと思われ、取引対象について、第9巡回区連邦控訴裁判所やワシントン州裁判所が示した区分のように、経済や金融に関する指標を対象とするものとそうでないものといった切り分けが必要と考えられます。
  • 正当業務行為として許容されるとする解釈((2)(ii))を取るには、社会観念上正当と認められる業務上の行為であることが必要です。もっとも、金融デリバティブ取引について正当業務行為による違法性阻却が受け入れられてきた実質は、整備された規制の枠組みの存在と、その枠内で行われる取引の社会的・経済的有用性にあると考えられます。規制の枠組みを欠き、日本国内において社会的・経済的有用性についてコンセンサスがあるとはまだ評価できない段階では、金銭型予測市場サービスについて、正当業務行為として直ちに許容されるとは言い難いと思われます。

 したがって、立法的手段なく、金銭型予測市場サービスが金融デリバティブとして許容されると解釈するのは難しいと思われ、追加の立法的な手当てが必要となると考えられます。

 金銭型予測市場サービスの実現のため、法令改正や新たな特別法の制定を行うとすれば、当該改正や制定の必要性や相当性を説明する必要があります。かかる説明に際しては、予測市場の確率予想やリスクヘッジ機能に注目して社会的・経済的有用性があると説明することが考えられます。参議院財政金融委員会で予測市場に関する質疑がなされた際も、予測市場の機能として経済予測、災害ヘッジ、価格発見等の役割が言及されました※40。懸念される問題に対して適切な解決案を提示しながら、金銭型予測市場サービスの導入の相当性が認められるといえるか、議論を注視する必要があります。

c. スポーツ関連の予測市場

 前述した金商法上の金融商品及び金融指標の定義の問題から、アメリカの予測市場サービスで特に取引量が多いスポーツ関連のイベント契約について、日本において金融デリバティブとして扱うには一定のハードルがあるように思われます。したがって、スポーツ関連の事象について、金銭型予測市場サービスを展開するには、立法的手段の検討にあたり特別な考慮が必要と思われます。

 前述のとおり、特別法の制定にあたっては、その必要性や相当性を説明する必要があるところ、金銭型予測市場サービスを賭博行為の禁止の例外として許容するためには、目的の公益性や運営主体の性格等を主な考慮要素として、賭博行為を禁止するよりも優越的な利益が認められるかが検討されるべきでしょう。これに関しては、スポーツ振興政策のための財源確保という公的な目的を掲げる公営のスポーツ振興くじが既に存在する以上、民間事業者によるサービス提供の必要性を説明することには一定のハードルがあると思われます。また、選挙の結果等の政治・経済に直接的に関連する事項と比較して、将来の事象について確率予想やリスクヘッジの必要性が相対的に低いと思われるスポーツの結果に関する予測市場については、前述した予測市場の将来予測やリスクヘッジ機能を理由にその必要性を強く基礎づけることは難しいと思われます。そのため、特にスポーツ関連の事項については、別途の説明を模索する必要があると考えられるところ、冒頭でも触れたとおり、消費者の目線からはスポーツベッティングと予測市場サービスの違いは相対的であることも踏まえ、スポーツベッティングの合法化とあわせて議論することも考えられます※41。

d. 日本での事業者の取り組み

 前述のとおり、日本での金銭型予測市場サービスの実現には一定のハードルがあることから、異なる仕組みで予測市場に関するサービスの提供を目指す事業者が登場しています。具体的には、無償ポイントやランキング等を用いて、賭博罪の構成要件該当性を否定する(具体的には、財産上の利益の得喪が生じない)ことを目指すものです。賭博罪にいう「財産上の利益」は財物より広い概念であり、金銭や暗号資産を用いないとしても、ポイント等に換金性や経済的価値が生じる設計である場合には賭博罪の適用可能性について慎重に検討する必要があるほか、報酬を設ける場合には景品表示法等の規律も別途問題となることから、金銭型予測市場サービスでないことのみから直ちに日本法上の適法性に疑義がないということはできないものの、独自の取り組みとして注目に値します。

6. おわりに

 予測市場をめぐる法的な状況は、本稿執筆時点においてもなお流動的です。アメリカでは、連邦控訴裁判所間の判断の対立を受けて連邦最高裁が事件を取り上げるか、CFTCの規則案が最終化されるか、スポーツ関連のイベント契約をCFTCの管轄から外す法案が可決されるかといった動向が、当面の注目点となります。日本においても、海外の大手事業者の参入意向や国内事業者の新たなサービス設計を背景に、予測市場に関する法的な検討の機会は今後増えていくことが予想されます。予測市場が有する社会的・経済的有用性には一定の価値があると思われる一方で、既存の賭博規制との関係等については慎重な整理が必要です。米国では既に巨大な市場が形成されていることから、今後、日本においても制度整備の是非を巡る議論が活発化する可能性があり、海外における制度形成の状況を含めて、予測市場を巡る法的動向については引き続き注視が必要と考えられます。

脚注一覧

※1
“2026 FIFA World Cup boosts prediction market volumes”, CNBC (July 4, 2026),
https://www.cnbc.com/2026/07/04/2026-fifa-world-cup-boosts-prediction-market-volumes.html

※2
「予測市場ポリマーケット、日本の事業認可取得へ準備=報道」、ロイター(2026年5月21日)
https://www.reuters.com/jp/markets/japan/ENI3Z5JXI5JNZOQECFWB2DC4TA-2026-05-22/

※3
「完全無料の予測エンタメサービス「ヨソクヒロバ」が本日リリース! 〜獲得したポイントを電子マネー等に交換可能!〜」、株式会社gumi(2026年6月9日)
https://gu3.co.jp/news/archives/9211/

※4
Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act, Pub. L. No. 111-203, 124 Stat. 1376 (2010)

※5
CEA sec. 1a(47)(A)(ii), 7 U.S.C. § 1a(47)(A)(ii) (“any agreement, contract, or transaction … that provides for any purchase, sale, payment, or delivery (other than a dividend on an equity security) that is dependent on the occurrence, nonoccurrence, or the extent of the occurrence of an event or contingency associated with a potential financial, economic, or commercial consequence”)

※6
CEA sec. 5c(c)(5)(C), 7 U.S.C. § 7a-2(c)(5)(C)

※7
Prediction Markets; Public Interest Determinations, 91 Fed. Reg. 35806 (proposed June 12, 2026) (RIN 3038-AF65),
https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2026-06-12/pdf/2026-11854.pdf

※8
KalshiEX LLC v. CFTC, No. 1:23-cv-03257 (JMC), 2024 WL 4164694 (D.D.C. Sept. 12, 2024), appeal voluntarily dismissed, No. 24-5205 (D.C. Cir. May 7, 2025)

※9
KalshiEX LLC v. Flaherty, 172 F.4th 220 (3d Cir. 2026)

※10
KalshiEX LLC v. Assad, No. 25-7516, 2026 WL 2543846 (9th Cir. Aug. 28, 2026), KalshiEX LLC v. Schuler, Nos. 26-3196/26-5235 (6th Cir. Sept. 25, 2026)

※11
Petition for a Writ of Certiorari, Flaherty v. KalshiEX LLC, No. 26-299 (U.S. filed Sept. 2, 2026)

※12
Petition for Rehearing En Banc, KalshiEX LLC v. Assad, No. 25-7516 (9th Cir. filed Sept. 9, 2026)

※13
Commonwealth v. KalshiEX, LLC, No. 2584CV02525, 2026 WL 188019 (Mass. Super. Ct. Jan. 20, 2026)

※14
Office of the New York State Attorney General, “Governor Hochul and Attorney General James Announce New York Has Sued Kalshi for Running Illegal Gambling Operation” (July 31, 2026),
https://ag.ny.gov/press-release/2026/governor-hochul-and-attorney-general-james-announce-new-york-has-sued-kalshi

※15
State of Washington v. KalshiEX LLC, No. 26-2-10264-3 (King Cty. Super. Ct. Aug. 13, 2026)

※16
CFTC Press Release No. 9249-26, CFTC Seeks Public Comment on Notice of Proposed Rulemaking Concerning Event Contracts Involving Enumerated Activities (June 10, 2026),
https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases/9249-26

※17
“44 states are aligned on one thing in their fight against prediction markets. It’s about sports wagering”, CNBC (July 28, 2026),
https://www.cnbc.com/2026/07/28/44-states-say-cftc-has-no-authority-over-sports-prediction-markets.html

※18
CFTC Press Release No. 9267-26, CFTC Stays KalshiEX Rule Change and Exercises Emergency Authority to Order Fulfillment of Pending Trades (July 14, 2026),
https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases/9267-26

※19
CFTC Press Release No. 9281-26, CFTC Exercises Emergency Authority to Ensure Market Stability (Aug. 11, 2026),
https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases/9281-26

※20
KalshiEX LLC v. Cafferelli, No. 3:25-cv-02016 (D. Conn. Aug. 10, 2026)

※21
CFTC Press Release No. 9233-26 (May 19, 2026), CFTC Sues Minnesota to Block State Law,
https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases/9233-26

※22
CFTC Press Release No. 9260-26, CFTC Sues Kentucky to Prevent Violation of CFTC’s Exclusive Jurisdiction (June 23, 2026),
https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases/9260-26

※23
CFTC Press Release No. 9278-26, CFTC Reminds Markets to Display Clear Pricing Information (Aug. 7, 2026),
https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases/9278-26

※24
CFTC Staff Letter No. 26-23 (Aug. 12, 2026),
https://www.cftc.gov/csl/26-23/download

※25
CFTC Press Release No. 9217-26, CFTC Charges U.S. Service Member with Insider Trading in Nicolás Maduro-Related Event Contracts (Apr. 23, 2026),
https://www.cftc.gov/PressRoom/PressReleases/9217-26

※26
Prediction Markets Are Gambling Act, S. 4160, 119th Cong. (2026); H.R. 9856, 119th Cong. (2026)

※27
Preventing Real-time Exploitation and Deceptive Insider Congressional Trading Act (PREDICT Act), H.R. 8076, 119th Cong. (2026)

※28
No Insider Trading on National Security Act, H.R. 10137, 119th Cong. (2026)

※29
“Sporttrade Exits Sports Betting to Rebuild Around Prediction Markets Under CFTC Oversight”, Finance Magnates (May 19, 2026),
https://www.financemagnates.com/forex/sporttrade-exits-sports-betting-to-rebuild-around-prediction-markets-under-cftc-oversight/

※30
“Polymarket blocked in Portugal but will the predictions platform be fazed?”, SBC News (Jan. 23, 2026),
https://sbcnews.co.uk/sportsbook/2026/01/23/polymarket-portugal-blocked/

※31
SZTFH, List of Blocked Gambling Websites (Szerencsejátékügyi blokkolt honlapok),
https://sztfh.hu/nyilvantartasok/blokkolt-honlapok/

※32
UK Gambling Commission, “Prediction markets – here’s what you need to know” (Feb. 4, 2026),
https://www.gamblingcommission.gov.uk/blog/post/prediction-markets-heres-what-you-need-to-know

※33
ACMA, “Latest illegal online gambling websites blocked” (Aug. 13, 2025),
https://www.acma.gov.au/articles/2025-08/latest-illegal-online-gambling-websites-blocked

※34
“Korea moves to block Polymarket over illegal gambling”, The Korea Times (Aug. 19, 2026),
https://www.koreatimes.co.kr/business/companies/20260819/korea-moves-to-block-polymarket-over-illegal-gambling

※35
「賭博罪及び富くじ罪に関する質問主意書(平成25年10月22日提出質問第17号)」に対する「衆議院議員階猛君提出賭博罪及び富くじ罪に関する質問に対する答弁書(内閣衆質185第17号平成25年11月1日)」
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b185017.htm

※36
警察庁「オンラインカジノを利用した賭博は犯罪です!」
https://www.npa.go.jp/bureau/safetylife/hoan/onlinecasino/onlinecasino.html

※37
金融法委員会「金融デリバティブ取引と賭博罪に関する論点整理」(1999年11月29日)(https://www.flb.gr.jp/jdocument.htm掲載)。本文の分類も同文献に沿ったもの。

※38
例えば、金融商品市場内で行われるデリバティブ取引(厳密には、ポジション解消時の差金決済取引)は、整備された法制度の下で市場の健全な発展に有用な取引として、正当業務行為により違法性が阻却されると解されてきました。神田秀樹監修『注解証券取引法』(有斐閣、1997年)1383頁参照

※39
「金融指標」として参照される対象は、「金融商品の価格又は金融商品…の利率等」(同条25項1号)のほか、「気象庁その他の者が発表する気象の観測の成果に係る数値」(同条25項2号)や、「その変動に影響を及ぼすことが不可能若しくは著しく困難であって、事業者の事業活動に重大な影響を与える指標(中略)又は社会経済の状況に関する統計の数値であって、これらの指標又は数値に係るデリバティブ取引(デリバティブ取引に類似する取引を含む。)について投資者の保護を確保することが必要と認められるものとして政令で定めるもの」(同項3号)などとされています。

※40
第221回国会参議院財政金融委員会会議録第7号(令和8年4月21日)

※41
スポーツベッティングの合法化に関する議論について、加藤志郎「Call or Fold?――スポーツベッティング合法化を巡る議論の基礎」法学セミナー816号(2023年)50頁

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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