(i) 連邦裁判所における判断
予測市場に関する活発な議論や訴訟は、連邦裁判所において、規制当局であるCFTCの規制権限を限定的に解する判断がなされたことに端を発します。CFTCは、2024年の連邦議会選挙の結果を対象とするイベント契約について、CFTCが上場の禁止権限を有する”gaming”に関わる契約である(上記a.参照)として、予測市場事業者による当該契約の上場を認めない決定をしました。しかし、2024年9月、コロンビア特別区連邦地裁は、選挙の結果を対象とするイベント契約は、”gaming”の類型に該当しないとして、当該決定を違法と判断しました※8。CFTCは、当該判断に対して控訴しましたが、2025年5月に控訴を取り下げました。
また、各州の賭博規制当局の判断に関する訴訟も相次いでいます。予測市場事業者がスポーツの試合結果を対象とするイベント契約の提供を開始したことに対し、各州の賭博規制当局が、当該契約の提供は、州法上必要な許認可を得ない無免許でのスポーツベッティングを行うものであるとして、当該契約の提供に関して停止命令等の措置を講じました。これに対し、予測市場事業者は、各州を相手に連邦地裁に提訴しています。訴訟ごとに進行の程度や論点は異なりますが、大まかには、スポーツ関連のイベント契約が、CEA上のスワップ取引に該当するか否かが主な論点となっています。スポーツ関連のイベント契約がCEA上のスワップ取引に該当する場合には、当該取引については連邦法に基づくCFTCの排他的管轄が及び、州の賭博規制の適用が排除されると考えられます。各州の訴訟について、州や審級によってスポーツ関連のイベント契約のスワップ取引該当性等の判断は分かれています。
特に、ニュージャージー州に係る事件について、第3巡回区連邦控訴裁判所がスポーツ関連のイベント契約のスワップ取引該当性と州賭博規制に対する連邦法の優先を認める判断を示した※9一方で、ネバダ州に係る事件並びにオハイオ州及びテネシー州に係る事件について、第9巡回区連邦控訴裁判所及び第6巡回区連邦控訴裁判所が正反対の結論を示した※10点は注目に値します。第9巡回区連邦控訴裁判所は、スポーツの試合結果を対象とするイベント契約は、CEA上のスワップ取引に該当しない可能性が高いとして、CEAがネバダ州の賭博規制に優先することの蓋然性が示されていないと判断しました。また、第6巡回区連邦控訴裁判所は、スポーツ関連のイベント契約がCEA上のスワップ取引に該当しないと判断するとともに、仮にスワップ取引に該当するとしても連邦法はオハイオ州及びテネシー州の賭博規制に優先しないと判断しました。これにより、連邦控訴裁判所の判断は、州側に有利なものが2件、連邦法の優先を認めたものが1件と分かれる状況になっています。連邦控訴審裁判所の判断が真っ向から対立する状態となったことから、訴訟を通じた統一的な解決には、連邦最高裁による判断が必要とされます。
ニュージャージー州は、2026年9月2日、CEAが州の賭博規制に優先される旨の第3巡回区連邦控訴裁判所の判断について連邦最高裁に上告受理の申立てを行いました※11。他方、予測市場事業者は、同月9日、CEAの適用を否定した第9巡回区連邦控訴裁判所に対して、大法廷(en banc)による再審理を申し立てています※12。
予測市場事業者と州の双方が異なる経路で控訴審判断の見直しを図る状況にあり、連邦最高裁が申立てを受理するか否かが、当面の最大の注目点です。