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トランプ関税を違法とした連邦最高裁判決とそれに伴う還付手続
(2026年5月)
南繁樹
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
株式取得の方法による企業買収取引において、買手側の内国法人が対象会社につきいわゆるデューディリジェンス(DD)を行った場合の専門家等の費用につき、法人税法上、当期において直ちに損金算入できるのか、または買収に係る株式の取得価額として資産計上することを要するのか、という論点は、ここ数年の税務調査における頻出論点であり、実務に携わる方の悩みの点でありました。
この論点については、当職の理解では未だ司法判断は存在しなかったところですが、今般、東京地裁令和8年2月18日判決(「本判決」)は、初と思われる司法判断を下しました。
そこで、本判決の判示内容につき、簡潔にご紹介します。もっとも、本判決は控訴されているとのことであり、判断が覆る可能性もあります。
当職は、約4年前の2022年に、既にこの論点を取り上げて、(公社)日本租税研究協会の講演の場で私見を述べておりまして(平川雄士「税務調査段階における頻出論点と実務対応」租税研究877号40頁(2022年))(「前稿」)、前稿にも適宜言及しながら説明します。
変則的ですが、本判決の当てはめの結論からご紹介します。今後の実務において端的に参考になり得るのはこの結論部分であると思われるためです※1。
まず、従前から課税実務において問題とされていたDD費用それ自体については、弁護士に支払った法務DD費用および会計系事務所に支払った財務DD費用のいずれも、当期において損金算入が認められています。つまり取得価額としての資産計上は不要ということです。
前稿においても、そもそもDDというものは、法人が対象会社を買収する、つまり株式を取得するとの最終的な意思決定を行う前に、そもそも買収すべきか否かを判断するために行うものであり、そのための費用は当期において損金算入が認められるべきとの私見を述べていました。
なお、本件で弁護士に対して支払われた費用の中には、買収に係る株式譲渡契約の法務レビューの費用も含まれていましたが、本判決は、これについても、DD費用と同じく、結論として当期における損金算入を認めています。
さらに、本件では、いわゆるM&A仲介業者が起用されており、当該業者への支払についても争点とされています。このうち、初期段階の情報提供料と中間報酬については、DD費用と同じく、当期において損金算入が認められています。他方で、最終契約締結に至った場合の成功報酬については、当期における損金算入は認められず、株式の取得価額として資産計上を要する旨判断されています。
この判断は、M&A仲介業者に対する支払に限らず、いわゆるフィナンシャル・アドバイザーに対する支払についても同様に妥当すると解するのが合理的と思われます。
以上の当てはめに係る結論を導出した法令解釈つまりは規範・判断枠組みは、大要、以下のようなものです。
※ そもそも、M&A取引は、案件ごとの個別性が高く、買収者の組織・規模や対象会社との関係性等に応じて、求められるDDの精度やM&Aの意思決定に至る経過も多種多様であって、例えば、当初計画していたM&Aの手法とは異なる手法によりM&Aが行われることがあるのみならず、事業年度をまたいで交渉を行い、その間、DD等の費用を支出したが、DDの結果、重要な問題が発見されて株式取得の実行を断念したり、DDで顕出された対象会社の問題点を基に契約条件の交渉を進めたものの合意が成立しなかったりして、最終的にM&A取引に至らないことも実務上頻繁に生じ得ると認められる。このように、M&A取引の交渉過程における流動性や不確実性は、一般的・類型的に低いということはできず、特定の会社を対象会社としてDDを行ったことをもって、M&A取引が成立する蓋然性が高いとか、当該DDが対象会社の株式の購入に向けられたものであるなどと即断することもできないのであって、最終的にM&A取引が成立するか否か、成立するとしても、対象会社(譲渡希望企業)の株式を買収者(譲受希望企業)が取得することになるか否かについては、交渉の過程を通じてその蓋然性(不確実性)が変動し得るものである。このため、M&A取引の交渉過程において生じた様々な費用について、そのような具体的な事情を捨象して、M&A取引との関連の程度や支出の必要性等を一律に論じることはできない。
以上、要するに、諸事情を踏まえた総合判断、というよくある言い回しではあるのですが、当てはめにおいて最も重視されている要素は、各業務の履行時点ないしは費用の発生時点における株式購入の蓋然性の程度、つまり、ディールが成立する蓋然性が相当程度高まっていたといえる程度にディールブレイクとなる不確実性が解消されていたといえるか否かという点であるように見受けられます。
すなわち、本判決は、法務・財務DD費用、株式譲渡契約の法務レビュー費用、M&A仲介の情報提供料や中間報酬については、それらの業務の履行の時点ないしは費用の発生時点においては、客観的にみて、未だディール成立の蓋然性が相当程度高まっていたとはいえない、ディールブレイクとなる不確実性が解消されていたとはいえないと評価しているといえます。注目されるのは、いわゆる基本合意書が締結された時点以後においても、それが(実務の通例どおり)法的拘束力を有しないものであったこと等から、なお上記の評価が維持されている点です。つまり、基本合意書の締結をもって、ほぼほぼディール成立ですよね、という評価はしていないということです。
他方で、M&A仲介の成功報酬については、最終契約が締結された場合に支払うとの契約条件であったことから、その時点ではディール成立の蓋然性が相当程度高まっておりディールブレイクとなる不確実性が解消されていたと評価しているといえます。法的拘束力を有する最終契約が締結されていれば、さすがにディール成立といってよいでしょう、という評価に異を唱える方はあまりいないのではないかと思われます※2。
とりわけ、上記のM&A取引の不確実性(※)の説示の部分は、前稿で最も強く訴えたかった点そのものであり、前稿ではそのような中で行われるDD費用が取得価額となるわけがなかろうとの私見を述べていたところです。その意味では、判示には共感を覚えます。
また、本判決の上記⑤の説示は、法人の意思決定機関による正式な意思決定の時点を基準に判断する考え方を否定しているように読めますが、本件の納税者がいわゆるワンマン経営の一人会社の類であったこともあり、結局は最終契約締結の時点を基準に判断しているように見受けられます。いわゆる我が国の伝統的大企業様の場合(有り体に申せば法務・コンプラ周りがしっかりしておられる会社様の場合)は、法人の意思決定機関による正式な意思決定(取締役会決議等)が行われることなくしてM&Aの最終契約が締結されるなどということは生じないのが通常であり、また、(これらが前後するイレギュラーな場合でも)最終契約が締結されていながら、正式な機関決定が未了なのだからDD中と同程度にまだディールブレイクがあり得る状況であると考える実務家は当職含めあまりいないだろうと思われますので、この点は実質的には実務に悪影響を与えるような判示ではないように思われます。
以上の本判決の判示は措いて、本判決が控訴されていることもあり、では課税庁や国はどういう主張をしているのか、つまり、納税者において今後も仮に保守的に対応するとすれば課税庁や国の主張に従っておくということになろうが、それはどういう考え方であるのか、との点にご関心がある方も多いと思われます。
前稿において批判的検討の対象とした、当時(2022年時点)の事実上の当局の見解は、①会社としての買収の正式な意思決定前に生じたDD費用であっても、部内レベル等でそのDDの対象とした企業を買収先として絞って(特定して)いるケースにおいては、実態として株式の購入が確定している場合の費用であるから、この時点からDD費用は付随費用として取得価額に加算して資産計上しなければならない、もっとも、②複数の買収候補の企業の中から買収先を確定させるために同時並行的にしたDDの費用であれば損金算入可能といったものでありました※3。このうち、②の点は割愛しますが(詳しくは前稿をご参照)、①の点が課税実務の定説であったと理解していました。
しかるに、本判決の事件においては、国側は、大要、⑴法人税法施行令119条1項1号は法人税法22条4項の公正処理基準を確認したものであり、同号の解釈としては公正処理基準の内容を参酌すべきである、⑵企業結合会計基準によれば、外部のアドバイザー等に支払った特定の報酬・手数料等のうち現実に契約に至った企業結合に関連する支出額は、法人税法施行令119条1項1号の「その有価証券の購入のために要した費用」に該当すると解することが公正処理基準に合致する、⑶有価証券の取得価額に算入されるか否かは、特定の有価証券の購入に関する支出であるか否か、最終的に買収に至ったか否かによって判断されるものであるから、取得価額に算入されるか否かの判断において、支出時点または支出が不可避となった時点における購入の不確実性が影響を与えることはない、との主張をしています。
上記2つの主張は、有意に異なるものであるように思われます。前者では、部内レベル等でそのDDの対象とした企業を買収先として絞って(特定して)いるケースにおいては、実態として株式の購入が確定している、との旨を述べ、取引成立の蓋然性を問題としていながら、後者の⑶では、支出時点または支出が不可避となった時点における購入の不確実性が影響を与えることはないと断じています。また、前者では、会計基準への言及はなく、むしろ会計とは異なる解釈を主張しているものと(少なくとも当職は)理解していましたが、後者の⑴⑵では、会計基準(公正処理基準)にいわば「全振り」しています。
ということで、今今時点における本論点における課税庁・国側の立場がどういうものであるかについては、必ずしも判然としない、といわざるを得ないところです※4。
なお、本判決は、当然ながら上記後者の国の主張に対して応答を示しており、大要、(ア)法人税法施行令119条1項1号の解釈につき、企業結合会計基準に白紙的に委ねる趣旨であると解することは困難であり、法人税法その他の関係法令の規定をみても、そのような趣旨であることをうかがわせる規定は見当たらないことからすると、法人税法施行令119条1項1号の解釈において企業結合会計基準を重視することは相当でない、(イ)上記判示のような諸事情を踏まえることなく、単に、最終的に買収に至ったか否かという事情によって、取得価額該当性を一律に判断することはできない、(ウ)最終的に買収に至ったか否かという後発的事情によって税務処理が左右されるというのは、税務処理の安定性の観点から疑問である上、法令の文言上も、上記主張のように解すべき的確な根拠を見いだし難いといわざるを得ない、(エ)そもそも、最終的に買収(株式取得の方法によるM&A取引)に至らなかった場合には、株式の「取得」がない以上、「取得価額」を算定することもないのであって、最終的に買収に至ったことは、ある費用の取得価額該当性を判断するための前提条件にすぎず、せいぜい取得価額該当性の必要条件というべきであり、その十分条件とは解されない、との旨を説示しています。とりわけ(イ)以下は、前稿における批判的検討の論拠として私見が述べていたところに沿うもので、やはり判示には共感を覚えます。
本判決が控訴されていることもあり、今後の課税実務が本判決に沿って動くことになるとは未だいえないものと思われますが、他方で、本判決の示した解釈が客観的にみて法的に合理性のある解釈であることには疑いはないと思われます。各納税者様の税務対応上の嗜好にもよりますが、種々のプロコンを考慮の上で本判決や前稿の立場を申告時のポジションとしてとられる場合には、まさに前稿で述べたところですが、税務調査の場面において適確かつ効果的な法的反論を展開することが、実務的には最も重要となってこようと思われます。
※1
分かりやすさの観点からこのように結論を類型的に整理して述べていますが、本来的には、本判決も判示するとおり、個別事情を捨象して、この名称・名目の費用であれば損金算入可または不可、などと一律にまたは類型的に割り切れるものではございませんので、ご理解をお願いいたします。
※2
もちろん、最終契約のサイニングが行われていても、クロージングの前提条件が充足されずかつその放棄も行われない等の場合にはディールの実行は行われないことにはなり、その意味での不確実性はなお残るのですが、この点は、本判決においても特に問題視されていません。(それを言い出したらキリがない、ということかと拝察されます。)
※3
税務通信3709号(2022年)2頁。
※4
税務調査における執行の場面の見解と、租税訴訟における主張上の見解は、必ずしも一致するものではないと経験上感じてはいますが、その点はひとまず措きます。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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