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インド:デジタル個人情報保護法の規則の公表及び同法の一部施行
安西統裕、早川健、一色健太(共著)
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Publication
ニュースレター
<XR/メタバース Update> 「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理」の公表(2023年6月)
<XR/メタバース Update> 「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2024」の公表(2024年12月)
特集
web3・メタバースビジネス活用での法務課題
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
XR・メタバースビジネスに関する政府の議論として、2023年5月に「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理」が公表されました※1。政府におけるメタバースに関する議論は、その後も引き続き行われています。総務省は、ユーザにとって安心・安全なメタバースの実現に向けて、安心・安全なメタバースの実現に関する研究会を組成し、2024年10月31日付で、「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2024」(以下「報告書2024」といいます。)を公表しました※2。その後、AR・MRデバイスの進展やメタバース利活用の多目的化、導入市場の拡大に鑑み、2024年12月に開催された第10回研究会より、同研究会での議論の主な対象を、これまでの個人間のコミュニケーション・エンターテインメントを主目的とするVR・メタバースから、メタバースの実現・利用を可能とする技術の内容を問わず、個人間でのコミュニケーション・エンターテインメントや産業利用目的をはじめとした様々な目的のメタバース全般へと拡大させました。
上記を踏まえて議論を重ね、2025年7月23日には「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2025」(以下「本報告書」といいます。)の素案が公表されました。2025年8月4日から同年8月27日にかけて、上記素案に関する意見募集が実施され、提出された意見を参考に素案を修正したものが、本報告書となります。
本報告書は、メタバースに関する国内外の最近の動向や技術動向・利活用事例に触れつつ、「メタバースの原則(第2.0版)」や今後の検討事項を紹介するものであり、メタバースに携わる関係者には重要なものといえます。本ニュースレターでは、本報告書の概要について紹介いたします。
本報告書は、以下の5つの章から構成されています。
本報告書の構成
第1章では、メタバース市場の動向について紹介されており、市場の動向、ユーザの動向、デバイス開発動向を紹介しつつ、メタバースにおけるコミュニティ・情報流通の課題について議論されています。第2章では、ハプティクス(力触覚を人工的に生成する技術)やAIといった各種先端技術の活用動向や、メタバースをめぐるデータ取得・活用の状況及びメタバースの利用が人々の身体や感情に与える影響が記載されています。第3章では、政策・制度に関し、日本国内の動向及び海外の動向が紹介されています。第4章では報告書2024にて策定された、メタバース関連サービス提供者の取組として期待される項目に関する原則である「メタバースの原則(第1.0版)」のアップデートに係る検討経緯及び「メタバースの原則(第2.0版)」の内容が紹介されています。最後に、第5章では今後の検討課題として、安心・安全なメタバースの実現及び更なる利活用に係る課題等の検討が紹介されています。
本ニュースレターでは、本報告書の中心的な内容であり、特にメタバース関連サービス提供者や利用者に影響があり得る第4章(メタバースの原則(第2.0版)の検討)及び第5章(今後の課題)について、「メタバースの原則(第1.0版)」からのアップデート箇所を中心に以下でより詳しく紹介します。
報告書2024では、メタバースにおける民主的価値の主な要素を示した上で、これを実現するため、仮想空間そのものの提供を担うメタバース関連サービス提供者が果たす役割が特に重要であることに注目して、メタバース関連サービス提供者の取組として期待される項目に関する原則を、「メタバースの原則(第1.0版)」(以下「1.0版」といいます。)と定義していました。このメタバースの原則に法的拘束力があるわけではありませんが、メタバース関連サービス提供者が事業を展開する上で考慮すべき項目を示す一つの指針として参考にすべきものといえます。
1.0版の改定は、①1.0版策定時からの状況変化を踏まえた更新、②VRメタバースからAR・MRメタバースへの議論対象拡大、③コミュニケーション・エンタメ目的から多目的への議論対象拡大、④デバイスの進展及び⑤国外のソフトローとの比較の5つの観点から検討されました。
<国外のソフトローとの比較>
上記の検討の観点のうち、⑤国外のソフトローとの比較については、1.0版と国外のソフトローとの比較をまとめた表が掲載されており、国外のソフトローにおける原則のうち1.0版では読み取ることが難しい論点(ウェルビーイング・健康増進など)の抽出などが行われています。
(出典:総務省「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2025 概要」(2025年9月)※3p.19)
<抽出された主な論点>
上記の国外のソフトローとの比較を含む①乃至⑤の観点からの検討が行われ、以下の項目が主な論点として抽出されました。これらを踏まえ、本報告書における「メタバースの原則(第2.0版)」(以下単に「メタバースの原則」といいます。)が検討されています。
| 抽出された主な論点 | |
|---|---|
| ①「透明性・説明性」に関する内容 |
|
| ②「プライバシー」に関する内容 |
|
| ③「知的財産権等の適正な保護」に関する内容 |
|
| ④契約・取引に関する内容 |
|
| ⑤身体、感情、行動等に関する内容 |
|
| ⑥その他※4 |
|
(総務省「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2025 概要」(2025年9月)p.23を基に執筆者作成)
なお、改定後のメタバースの原則は、1.0版に引き続き、「ユーザ」、「コンテンツの創作や提供を行う者(クリエイターを含みます。)」、「メタバースに関するルール整備に関わる者」、「メタバースに関するユーザのリテラシー向上に関わる者」を含む全てのステークホルダーの取組においても参照されることが期待されるものですが、XRデバイスを提供するデバイスメーカー等の果たすべき役割の重要性に鑑み、「デバイスを提供する者」が含まれることが明記されており、引き続きメタバースに関係する全ての方が参照すべきものといえます。
<メタバースをめぐるステークホルダー>
(出典:総務省「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2025 概要」(2025年9月)p.24)
メタバースの原則は、大きく分けて前文と原則に分けて述べられています。前文では、「民主的価値を踏まえたメタバースの将来像の醸成」、「原則の位置付け」、「各原則についての考え方」、及び「補足」について述べられています。
前文の内容は1.0版からの修正はありませんので、以下、メタバースの各原則を構成する項目とその内容を紹介し、改定があった点を中心に説明いたします。
<原則①:メタバースの自主・自律的な発展に関する原則>
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| オープン性・イノベーション |
|
| 多様性・包摂性 |
|
| リテラシー |
|
| コミュニティ |
|
(総務省「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2025 概要」(2025年9月)p.32を基に執筆者作成)
1.0版から原則の内容自体には追加・修正はないものの、主要な改定箇所としては以下の点が挙げられます。
「自由な事業展開によるイノベーション促進、多種多様なユースケースの創出」の解説において、メタバース関連サービス提供者は、メタバースの利用が人々の身体、感情、行動等に正負両面の影響を与える可能性があることを認識し、その提供するメタバースサービスがユーザの身体的・精神的な健康の増進に寄与するものとなるよう開発・運営等に努めることが期待される旨が追加されました。これは、上記論点⑤「国外のソフトローとの比較」を反映したものと考えられ、実際に人々の身体的・精神的な損害が生じた場合に、上記のような配慮を行っていたかという点が、メタバース関連サービス提供者の責任の有無の判断の考慮材料となり得ると考えられます。
また、「知的財産権等の適正な保護」の内容として、技術・ノウハウなどユーザから取得するデータについて競争上の理由等から他者に秘匿すべきものがあることに留意する旨も追加されています。
<原則②:メタバースの信頼性向上に関する原則>(下線部は1.0版からの追加・修正)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 透明性・説明性 |
|
| アカウンタビリティ |
|
| プライバシー |
|
| セキュリティ |
|
(総務省「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2025 概要」(2025年9月)p.32を基に執筆者作成)
1.0版から上記表の下線部分が追加・修正され、主要な改定箇所としては以下の点が挙げられます。
まず、「真正性を確認するための措置」が追加されており、その内容は、メタバース関連サービス提供者は、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、空間内の行動主体の真正性を担保する必要性の程度は様々であることを認識し、必要な場合には、ユーザが真正性を確認できるよう措置を講じることが期待される旨が述べられています。これは、AIアバターがユーザに損害を与える可能性があることから責任の所在を明確化する観点で追加されたものです。具体的な対応策としては、行動主体について、その責任を負う者の特定が必要とされる場面においては、当該責任を負う者を特定するための情報若しくは当該責任を負う者をメタバース関連サービス提供者で特定している旨、又は上述の対応が困難若しくは不適当な場合には、サービス上の行動主体についてその責任を負う者を特定していない旨を、利用規約やコミュニティガイドライン等を通じてユーザに明示する旨が述べられています。また、その責任を負う者の本人確認が必要とされる場面においては、本人確認済である旨がその確認手法も含め判別できるようにする旨も述べられており、メタバース推進協議会による「メタバースセキュリティガイドライン(第2版)」(2023年12月)も参考になります。
また、「物理空間に対して仮想的に付加又は削除する情報の選択、表示に関する措置」が追加されています。その内容は、メタバースにはプライベートな空間から多数の者が参加して一定の公共性を有する空間まで多様なものが存在するものの、仮想空間と物理空間の融合が進む中で、個々のユーザに表示される情報の態様が一律でない場合もあるところ、情報を仮想的に付加又は削除できるメタバース上でのコミュニケーションにおいては、必ずしもそのことが保証されないため、他者との議論の際に前提となる共通認識を得づらくなり、民主主義に不可欠な要素である協働的な合意形成や社会的な意思決定が難しくなるリスクも考えられる旨が述べられています。上記を踏まえて、メタバース関連サービス提供者は、その提供するメタバースサービスの特性に応じて、SNS等の他のサービスをめぐる議論の状況等も参照しながら、こうしたリスクに対処するための措置を、付加又は削除される情報の文脈や内容を踏まえつつ講じることが期待される旨が述べられています。
最後に、「ユーザの安全確保のための措置」が追加されています。その内容は、屋外など危険が生じる場所における利用が想定され、又は、使用方法に応じてけがや事故などのリスクが予測されるケースにおいては、メタバース関連サービス提供者は、ユーザに安全な利用を求めるとともに、ユーザの安全確保のために提供するサービスの機能を一部制限し、その他必要な措置をとることが期待され、また、ユーザの安全確保のために講じる措置について説明することが期待される旨が述べられています。こちらは、上記論点②「VRメタバースからAR・MRメタバースへの議論対象拡大」を踏まえた構成員等による意見において指摘された事項に基づき「抽出された主な論点」のうち、⑤「身体、感情、行動等に関する内容」を反映したものと考えられます。実際にメタバースサービスの利用によって、ユーザにけがや事故などが起こった場合に、上記のような配慮を行っていたかという点が、メタバース関連サービス提供者の責任の有無やその範囲の判断における考慮材料となり得ると考えられます。
1.0版からの主要な改定箇所として、「サービス外の周囲の人物のプライバシーへの配慮」が追加されました。提供するメタバースサービスの特性によっては、ユーザがサービスを利用していない周囲の人物とも物理空間を共有する場合があることを踏まえ、メタバース関連サービス提供者は、利用中に周囲の撮影やデータの取得を行う際は、同じサービスを用いる他のユーザだけでなく、それ以外の人物のプライバシーにも配慮が必要なことを、ユーザに注意喚起することが期待される旨が述べられています。
本報告書では、メタバースに関する今後の課題について、以下の「安心・安全なメタバースの実現に係る課題」及び「安心・安全なメタバースの更なる利活用に係る課題」が挙げられています。
<安心・安全なメタバースの実現に係る課題>
<安心・安全なメタバースの更なる利活用に係る課題>
法的な観点からは、「生体情報等を含むマルチモーダルなデータの取扱いに係る検討」と「物理空間に対して仮想的に付加又は削除する情報の選択、表示に関する検討」が特に重要となります。「生体情報等を含むマルチモーダルなデータの取扱いに係る検討」については、XRデバイスから得られる情報が生体情報や位置情報等を含むマルチモーダルで機微なものになる中で、ユーザの安心・安全を確保しながら取得・分析・活用することが求められるところ、XRデバイスから取得したユーザのマルチモーダルなデータの取得・分析・第三者提供状況やユーザを通じて取得されうる外部環境のデータの取扱いについてはデバイスメーカーやビジネスユーザ等の取組実態も把握し、更なるユーザの安心・安全確保のために活用できる既存の技術やその社会実装への道筋を検討することが期待されています。また、「物理空間に対して仮想的に付加又は削除する情報の選択、表示に関する検討」については、上記の改定により一定の対応がなされたものの、利便性を最大限に維持しながら課題の影響を最小限に抑えるためにマルチステークホルダーによる効果的な方策の議論・検討が期待されています。
本報告書は、1.0版に引き続き、メタバース関連サービス提供者が、メタバース関連サービスの制度設計を行う上で、参照すべきものであるといえます。記載内容は多岐にわたりますが、上記のとおり法的な観点からも重要な記載が含まれており、利用規約やコミュニティガイドライン等を整備するに当たり留意が必要となります。
※1
内容は、https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/metaverse/index.htmlをご参照ください。概要は、NO&T Technology Law Update ~テクノロジー法ニュースレター~ No.36「<XR/メタバース Update>「メタバース上のコンテンツ等をめぐる新たな法的課題等に関する論点の整理」の公表」(2023年6月)においてもご紹介しています。
※2
報告書2024は、https://www.soumu.go.jp/main_content/000974751.pdfをご参照ください。報告書2024の概要は、NO&T Technology Law Update ~テクノロジー法ニュースレター~ No.54「<XR/メタバース Update> 「安心・安全なメタバースの実現に関する研究会 報告書2024」の公表」(2024年12月)においてもご紹介しています。
※4
「ユーザへの啓発、教育」、「マルチステークホルダーによる合意形成」及び「相互運用性・標準化」については、メタバースの原則の一義的な対象であるメタバース関連サービス提供者だけでなく、関係する各ステークホルダーがそれぞれ役割を分担しながら取り組むべき論点であることから、メタバースの原則改定で対応するのでなく、今後の課題として扱う旨が述べられています。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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