ニュースレター
株式会社による農業参入―農地の取得を題材に
宮城栄司
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
2025年10月2日、インドネシアの投資・下流化省/投資調整庁の新たな規則(BKPM規則2025年第5号。以下「BKPM新規則」)が施行された。BKPM新規則には、外国資本企業(PMA企業)に適用される投資規制に関して重要な変更が含まれているため、本稿で取り上げる。
BKPM新規則によって、外国資本企業の払込資本金の下限(最低払込資本金)が原則として25億ルピア(約2,355万円)に引き下げられた。
旧規則(BKPM規則2021年第4号)の下では、外国資本企業には最低100億ルピア(約9,420万円)の払込資本金が必要とされており、外国企業によるインドネシア進出、特に初期投資が少額で済む飲食業やサービス業等の事業分野での進出にとって高いハードルとなっていた。今回の改正により投資のハードルがかなり引き下げられたことになり、外国企業にとっては歓迎すべき改正と評価できる。この背景には、大統領選が実施された2024年に続き、2025年上半期の投資実績も前年同期比マイナスとなるなど、外国企業のインドネシアへの直接投資(FDI)が低迷している状況がある。
なお、払い込まれた資本金は、会社の事業継続を確保するため、資産の購入、建物の建設又は会社のオペレーションに用いられる場合を除き、払込日から最低12か月間は会社のアカウントから移動させないことが義務づけられる。
外国資本企業に適用される投資規制としては、最低払込資本金規制のほか、最低投資額規制も存在する。最低投資額とは、資本金、借入れの形態を問わず外国資本企業を通してインドネシアに投資される事業資金額の下限を意味する。
具体的には、外国資本企業には原則として、インドネシア標準産業分類(KBLIと呼ばれ、5桁の数字で構成される。)に基づく事業分野ごと、かつ事業地ごとに、最低投資額として100億ルピア超(土地、建物を除く。)の投資が求められる。
この最低投資額規制はBKPM新規則でも100億ルピア超のまま維持されている。旧規則下では、例えば1事業分野かつ1事業地で事業を行う外国資本企業を設立する場合、100億ルピアを資本金の形式で調達する必要があった。これに対して、新規則下でも、最低投資額規制を充足するために合計100億ルピア超の投資資金の調達が求められる点は変わらないが、ただ資本金は25億ルピアで足り、残りの75億ルピア超についてはより流動性の高い貸付金の形式で調達することも可能になった、という点で投資のハードルは下がったと言える。しかしながら、この100億ルピア超の最低投資額は、原則として外国資本企業が操業開始するまでに全額投資実現する必要があると解されていることから、初期投資が少額で済む事業分野では、引き続きインドネシア投資のハードルとなることが懸念される。
上記原則の例外として、一部の業種については以下の表のように個別のルールが設けられていて、BKPM新規則によって変更、新設された個別ルールもあり注目される。飲食業に関して言えば、旧規則ではKBLI番号の上2桁ごとかつ1事業地ごとに、100億ルピア超(土地、建物を除く。)の投資が必要であったのに対して、「KBLI番号の上2桁ごとかつ1県(Kabupaten)又は市(Kota)ごと」に変更された。これにより、同一の県又は市であれば、複数店舗を出店する場合であっても投資額は合計100億ルピア超で足りることになり、飲食事業者にとっては事業展開が容易になったと言える。
<旧規則に定められ、BKPM新規則においても基本的に維持されている例外>
| 大規模商業(ディストリビューターを含む。) | KBLI番号の上4桁ごとに100億ルピア超(土地、建物を除く。) |
| 建設業 | KBLI番号の上4桁ごとに100億ルピア超(土地、建物を除く。) |
| 製造業 | 異なる製品であっても、同一の生産ラインで製造される場合には、100億ルピア超(土地、建物を除く。)で足りる。 |
| 不動産開発業 | 建物全体又は住宅コンプレックスの開発事業等については、土地、建物を含み100億ルピア超 |
<BKPM新規則で変更、新設された例外>
| 飲食業 | KBLI番号の上2桁ごと、かつ1県(Kabupaten)又は市(Kota)ごとに100億ルピア超(土地、建物を除く。) |
| 電気自動車充電ステーション事業 |
1州(Provinsi)ごとに100億ルピア超(土地、建物を除く。) 【新設】 |
| 不動産管理(建設、販売、賃貸)、宿泊施設、農業、プランテーション、畜産、水産養殖 |
投資額の計算において土地、建物を算入する。 【新設】 |
なお、経済特区(Kawasan Ekonomi Khusus)における事業活動については、その投資事業分野に係る関連規則に基づいて最低投資額が定められるとされている。
外国投資家の視点からすると、最低投資額を原則維持しながら最低資本金額のみを引き下げるのはやや中途半端な改正という印象を受けるが、インドネシア政府としては、国内の中小零細企業の保護を図りながら、外資には引き続き大規模な投資を期待する姿勢を維持していることが窺われる。BKPM新規則による規制緩和が日系企業を含む外国企業のインドネシアへの進出や事業拡大の活性化にどこまで繋がるか、今後の投資トレンドの変化が注視される。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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