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ニュースレター

医療DX・医療データ法制の最新動向

著者等
萩原智治鳥巣正憲鈴木謙輔(共著)
出版社
長島・大野・常松法律事務所
書籍名・掲載誌
NO&T Health Care Law Update ~薬事・ヘルスケアニュースレター(法律救急箱)~ No.38/NO&T Technology Law Update ~テクノロジー法ニュースレター~ No.67/NO&T Data Protection Legal Update ~個人情報保護・データプライバシーニュースレター~No.63(2025年12月)
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医療DX・医療データ法制の最新動向 – 2025年医療法改正、2026年個人情報保護法改正、3省2ガイドライン・医学系研究倫理指針の改訂を念頭に(2025年11月)

特集
個人情報保護・データプロテクション

業務分野
キーワード

※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。

はじめに

 現在、医療・ヘルスケアの世界では「医療DX(デジタルトランスフォーメーション)」が広く注目を集めています。この言葉は最近ではメディアにも取り上げられ、日常の会話やニュースで耳にすることが増えてきました。しかし、その一方で「医療DX」が具体的に何を指しているのか理解するのが難しいという声も聞かれます。

 「医療DX」は単なる技術革新の枠を超え、医療業界全体を変革する包括的な取り組みであり、更には急激に進化し続けています。このような背景もあり、その全貌を把握することは容易ではありません。

 また、医療データに関する法制度もますます複雑化しています。医療法、次世代医療基盤法、個人情報保護法といった関連法令が多岐にわたる上、新法制定の動きも取り沙汰される中、関連当局から発表される最新の情報を追うだけでも、大変な労力を要します。さらに、「3省2ガイドライン」や「医学系研究倫理指針」の改定等、法令以外にも注視すべき動きが次々と登場しています。

 本ニュースレターでは、医療DXと医療データ法制に関する最新の動向を分かりやすくご紹介します。なお、薬事・ヘルスケアオープンスクール「医療DX・医療データ法制の最新動向 – 2025年医療法改正、2026年個人情報保護法改正、3省2ガイドライン・医学系研究倫理指針の改訂を念頭に」(2025年11月18日よりオンデマンド配信中)では、本ニュースレターで取り上げたテーマをさらに深掘りするとともに、2025年医療法改正やEHDS(European Health Data Space)、PHR指針や医学系倫理指針の改訂、医療データに関する個人情報保護委員会の執行事案等も含めて、幅広いトピックを分かりやすくご説明していますので、併せてご参照ください。



医療DX

1. 全体像

 「医療DX」という用語が政府の中で広く用いられるようになったのは、2022年秋頃からのことです。2022年10月には内閣官房に「医療DX推進本部」が設置され、これに対応する形で2022年9月には厚生労働省で「「医療DX令和ビジョン2030」厚生労働省推進チーム」が立ち上げられました。さらに、2023年7月には厚生労働省に「医療DX推進室」が設置され、現在まで厚生労働省の医療DX政策を統括・推進しています。

 厚生労働省は、「医療DX」を以下のように定義していますが、この定義のみでは、具体的に何を指し示しているのか、必ずしも明らかではありません。

保健・医療・介護の各段階(疾病の発症予防、受診、診察・治療・薬剤処方、診断書等の作成、診療報酬の請求、医療介護の連携によるケア、地域医療連携、研究開発など)において発生する情報やデータを、全体最適された基盤(クラウドなど)を通して、保健・医療や介護関係者の業務やシステム、データ保存の外部化・共通化・標準化を図り、国民自身の予防を促進し、より良質な医療やケアを受けられるように、社会や生活の形を変えること

 医療DXの内容を具体的に理解するにあたって、医療DX推進本部は2023年6月に「医療DXの推進に関する工程表」を公表しています。それ以降現在に至るまでの医療DX施策は、概ねこの工程表に沿った形で進んできています。工程表の中でも特に強調されているのが「全国医療情報プラットフォーム」の構築です。「全国医療情報プラットフォーム」については、厚生労働省は「全国医療情報プラットフォームの全体像」という資料を公表しており、電子処方箋管理サービスや電子カルテ情報共有サービス、オンライン資格確認システム等の位置づけや相互の関係、医療・介護データの二次利用に向けた基盤の創設、PHRの活用等について記載されています。

 「医療DXの推進に関する工程表」と「全国医療情報プラットフォームの全体像」の二つの資料を読み解くことが医療DX施策を理解する上での第一歩かつ当面のゴールといってよいでしょう。

● 医療DXの推進に関する工程表

https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/iryou_dx_suishin/pdf/suisin_zentaizo.pdf

● 全国医療情報プラットフォームの全体像

https://www.mhlw.go.jp/content/12600000/001332014.pdf

2. 2025年医療法改正法案(電子カルテ情報共有サービスの導入)

 2025年2月に閣議決定された医療法改正法案のうち、医療DXに特に関連するテーマの一つとして、電子カルテ情報共有サービスの導入があります。医療情報基盤・診療報酬審査支払機構(旧社会保険診療報酬支払基金)が運用する電子カルテ情報共有サービスに、各医療機関の電子カルテ情報を一元的に集約し、①患者自らがマイナポータルで電子カルテ情報を閲覧できるようになるとともに、②患者の同意に基づき他の医療機関の求めに応じて電子カルテ情報が提供されることが目指されています。医療機関から医療情報基盤・診療報酬審査支払機構に対する電子カルテ情報の提供については、地域医療支援病院等の一定の医療機関に電子カルテ情報の利用・提供に係る体制整備の努力義務を課すという形で、提供を促すこととされています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/johoka/denkarukyouyuu.html

3. 標準型電子カルテ

 これまで電子カルテについては、①医科の無床診療所を中心に紙カルテの運用が残っており電子カルテの普及が進まない、②電子カルテが導入されたとしても、ベンダーごと、あるいは同一ベンダーであっても情報規格が異なるために、外部連携が困難である、といった課題が指摘されてきました。現在、国は、自ら「標準型電子カルテ」を開発して医療機関に普及させることにより、これらの課題を解決することを模索しています。

 標準型電子カルテは、標準規格に準拠したクラウドベースでのシステム構成とした上で、必要最小限の基本機能を開発し、民間事業者等が各施設のニーズに応じたオプション機能を提供できるような構成が目指されています。2025年3月より標準型電子カルテα版の実証実験を実施されており、今後の展開が期待されています。

https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001392965.pdf

医療データ法制

1. 「医療情報特別法」について

 2025年6月13日に公表された「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」(デジタル行財政改革会議決定)では、医療情報に関する個人情報保護法の特別法を制定することをも念頭に置いた記載が見られます。一般法である個人情報保護法を医療の文脈に当てはめることは適切ではないのではないか、という問題意識は、個人情報保護法の成立以来、長年説かれてきたところであり、今回の動きをその流れの一環として位置づけることも可能です。

 2025年6月、内閣官房「デジタル行財政改革会議」が公表した「データ利活用制度の在り方に関する基本方針」では、概要、以下の事柄が述べられています。

  • 2025年3月に発効したEUのEHDS規則を参考にしつつ我が国の医療情報の利活用に関するグランドデザインを明らかにするべき。
  • 医療機関等から一定の強制力や強いインセンティブを持って医療情報を収集し、研究者や製薬企業等が円滑に利活用できる公的な情報連携基盤の在り方を検討するべき。
  • 内閣府がこれらの検討を取りまとめ、法改正が必要な場合には厚生労働省等が責任を持って対応し、2027年通常国会に法案提出するべき。

 これを受けて、2025年9月、内閣府健康・医療戦略推進本部「医療等情報の利活用の推進に関する検討会」が設置され、現在、上記基本方針に沿った検討が進められています。2025年12月に中間取りまとめ、2026年夏に議論の整理が行われることが予定されており、今後の議論に要注目です。

2. 個人情報保護法改正の動き

 2022年施行の個人情報保護法の附則において「施行後3年ごと見直し」が規定されていました。これを踏まえて、個人情報保護委員会は、2023年11月から、次回の個人情報保護法改正についての検討を進めています。2025年3月には「個人情報保護法の制度的課題に対する考え方について」が公表され、改正の方向性が明確になりつつあります。

 中でも注目すべきトピックとして、統計情報の作成目的時の第三者提供規制の例外規定の新設が挙げられます。個人データの第三者提供や要配慮個人情報の取得には原則として本人の同意が必要とされていますが、統計情報等の作成にのみ利用されることが担保されていること等を条件に、本人の同意を不要とすることが提案されています。特に、本人の同意なき個人データ等の第三者提供については、当該個人データ等が統計情報等の作成にのみ利用されることを担保する観点等から、以下の措置が講じられることが想定されています。

  • 個人データ等の提供元・提供先における一定の事項(提供元・提供先の氏名・名称、行おうとする統計作成等の内容等)の公表
  • 統計作成等のみを目的とした提供である旨の書面による提供元・提供先間の合意
  • 提供先における目的外利用及び第三者提供の禁止

 医療情報に基づく疫学研究等は、個人識別性のある情報は必ずしも必要でなく、究極的には統計情報の作成目的と整理できる場合も多いと考えられますので、「統計情報等の作成目的」という要件の具体的な内容・範囲によっては、(少なくとも個人情報保護法上は)本人の同意なしにこれらの研究を行うことができるようになるようにも思われます。「医療情報特別法」が目指しているものと重なる部分があるようにも思われるところであり、今後の議論に注目する必要があります。

3. 3省2ガイドラインのQ&A追加・改正の動き

 「医療情報」を取り扱う情報システムについては、いわゆる3省2ガイドラインを遵守することが求められています。このうち、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」においては、外部の事業者との契約に基づいて医療情報を外部保存する場合、保存された情報を格納する情報機器等が、「国内法の適用を受けること」を確認すること、という要件が定められています。近年、データ保存に際してはオンプレミスのサーバーではなくクラウド上で行うことが一般化してきているところ、医療情報をクラウドに保存することが当該要件によって禁止されているのか、必ずしも明確でない状況です。

 2025年5月に公表された同ガイドラインのQ&Aでは、生成AIサービスのプロンプトとして医療情報を入力する場合、入力情報が「AIの学習等のために保存されないこと」が契約等において担保されていれば、生成AIサービスのサーバーが国内法の適用を受けている必要はないことが明確化されました。もっとも、依然としてクラウド利用に係る上記要件の適用関係は明確でないところであり、2025年7月から始動した上記ガイドラインの改訂作業が注目されるところです。

本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。


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