1. 法人による農地の所有
農地法上、農地(耕作の目的に供される土地)の所有権を移転する場合は、原則として、農業委員会の許可を受ける必要がある(農地法第3条。)。そして、農地所有適格法人以外の法人への農地の所有権移転については、農業委員会は許可をすることができないとされており(農地法第3条第2項第2号)、法人が農地の所有権を取得するためには、農地所有適格法人でなければならない。
農地所有適格法人とは、農地法に定める要件を満たす農事組合法人、株式会社(非公開会社に限る。)又は持分会社である。株式会社が農地所有適格法人として満たすべき要件は以下のとおりである(農地法第2条第3項)。
- 主たる事業が農業※1であること※2
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以下の者に該当する株主(以下「農業関係者」という。)の有する議決権の合計が株主総会における総株主の議決権の過半を占めるものであること(以下「議決権要件」という。)
- 株式会社に農地の所有権若しくは使用収益権を移転した個人又はその一般承継人
- 株式会社に農地について使用収益権に基づく使用及び収益をさせている個人
- 株式会社に使用及び収益をさせるため農地について所有権の移転又は使用収益権の設定若しくは移転に関し農地法第3条第1項の許可を申請している個人
- 株式会社に農地について使用貸借による権利又は賃借権に基づく使用及び収益をさせている農地バンクに当該農地について使用貸借による権利又は賃借権を設定している個人
- 株式会社の行う農業に常時従事する者(常時従事者)
- 農作業(農産物を生産するために必要となる基幹的な作業)の委託を行っている個人
- 株式会社に農業経営基盤強化促進法第7条第3号に掲げる事業に係る現物出資を行った農地バンク
- 地方公共団体、農業協同組合又は農業協同組合連合会
- 株式会社の常時従事者たる株主が取締役の過半数以上であること
- 取締役又は農業に関する権限及び責任を有する使用人(いずれも常時従事者に限る。)のうち、一人以上の者がその法人の行う農業に必要な農作業に1年間に60日(取締役又は使用人が株式会社の農業に年間従事する日数の2分の1を超える日数のうち最も少ない日数が60日未満のときは、当該日数)以上従事すると認められるもの((3)と併せて、以下「役員要件」という。)
なお、常時従事者か否かは、以下のいずれかによって判定される(農地法第2条第4項、農地法施行規則第9条)。
- 株式会社の行う農業に年間150日以上従事すること
- 株式会社の行う農業に従事する日数が年間150日に満たない者については、①当該株式会社が行う農業に必要な年間総労働日数を②当該株式会社の株主の数で除した日数に③2/3を乗じた日数(60日未満の場合は60日)以上であること
- 株式会社の行う農業に従事する日数が年間60日に満たない者については、その株式会社に農地の所有権・使用収益権を移転し、又は使用収益権に基づく使用及び収益をさせており(以下「所有権移転等」という。)、かつ、その株式会社の行う農業に従事する日数が、(b)の計算式により得られる日数又は①当該株式会社が行う農業に必要な年間総労働日数に②株主が当該株式会社に所有権移転等を行った農地の面積の③当該株式会社の耕作に供している農地の面積に占める割合を乗じた日数のいずれか大きい方以上であること
以上のとおり、株式会社が農地所有適格法人の要件を満たすためには、議決権の過半数を農業関係者に保有させることや農業関係者を役員とすること等が必須となることから、農業を主たる事業として行うことを前提に新規参入する場合を除き、株式会社として農地所有適格法人の要件を満たすことはハードルが高い※3。