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インド:デジタル個人情報保護法の規則の公表及び同法の一部施行
安西統裕、早川健、一色健太(共著)
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※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
2023年8月に成立したデジタル個人情報保護法(Digital Personal Data Protection Act, 2023:以下「DPDP法」)※1は、それまでインドに存在していなかったプライバシー・データ保護に関する包括的な法律であるが、その詳細の多くを規則に委任しており、規則及び施行日については、中央政府が定めることとされていた。DPDP法の詳細を規定するデジタル個人情報保護法規則案は2025年1月3日に公表され、2025年パブリック・コメント手続に付されていたが、2025年11月13日に、デジタル個人情報保護法規則(Digital Personal Data Protection Rules, 2025:以下「DPDP規則」)※2が公表された。
DPDP法及びDPDP規則は、制度への対応に要する時間を確保するため、3つの異なるタイミングで順次施行されることとされている(一部はDPDP規則の公表日から即日施行された)。本稿では、段階的に施行される内容を紹介すると共に、新たに公表されたDPDP規則の内容を概説する。
DPDP法及びDPDP規則は、3段階で施行されることとされており、その施行時期と主な施行対象事項は以下のとおりである。
| 施行時期 | 主な施行対象事項 | |
|---|---|---|
| 1. | 2025年11月13日 |
|
| 2. | 2026年11月13日 |
|
| 3. | 2027年5月13日 |
|
DPDP法上、データ受託者がデータ主体から同意を取得してデータ処理を行う場合、データ受託者は、一定の事項をデータ主体に事前に通知しなければならない(DPDP法5条)。
DPDP規則は、上記の通知について、以下の内容を規定している。
DPDP法上、データ主体は、同意管理人を通じてデータ受託者に同意し、その同意を管理し、見直し又は撤回することができる(DPDP法6条7項)。これは欧州のGDPRや日本の個人情報保護法には見られないインド特有の制度である。
DPDP規則は、同意管理人の資格要件及び義務を定めている。また、同意管理人の登録申請手続や、データ保護委員会による同意管理人の義務違反に対する調査及び罰則等を規定している(DPDP規則4条)。
DPDP法上、データ受託者には、個人データの侵害を防止するための合理的なセキュリティ保護措置を講じる必要がある(DPDP法8条5項)。
DPDP規則は、当該合理的なセキュリティ保護措置について、最低限以下のものを含めなければならないと規定している(DPDP規則6条)。
DPDP法上、データ受託者は、個人データ侵害を認識した場合、データ保護委員会及び影響を受けたデータ主体に対して通知しなければならない(DPDP法8条6項)。
DPDP規則は、上記の通知の様式及び方法について、以下を規定している。
DPDP法上、個人データの保持が法律の遵守のために必要な場合を除き、データ受託者は、データ主体が同意を撤回した時点又は特定された目的が果たされなくなったと合理的に考えられる時点のいずれか早い時点において、自己の保有する個人データについて消去し、また、データ処理者をして当該個人データを消去させなければならない。また、関連規則で定める一定期間、データ主体がデータ受託者に対して特定された目的の実施について働きかけをせず、かつ、権利を行使しない場合には、特定された目的が果たされなくなったとみなされるとされている(DPDP法8条7項及び8項)。
DPDP規則は、上記の一定期間に関して、インドにおいて一定の規模以上の登録ユーザーを有する電子商取引事業者、オンライゲーム仲介業者及びソーシャルメディア仲介業者について、データ主体が最後にデータ受託者に対し、特定された目的の履行又は権利行使を求めた日、又はDPDP規則の施行日(DPDP規則8条については2027年5月13日)のいずれか遅い方から3年が経過した場合には、法令上当該個人データを保持する必要がない限り、当該個人データを削除しなければならないと規定している。この場合、データ受託者は、原則として、データ消去期限の遅くとも48時間前までに、データ主体に対し個人データが消去される旨を通知しなければならない(DPDP規則8条)。
DPDP法上、データ受託者は、データ保護オフィサー(該当する場合)又はデータ受託者を代表してデータ主体の個人データ処理に関する質問に回答できる者の連絡先を、関連規則の定める方法により公表しなければならない(DPDP法8条9項)。
DPDP規則は、上記の公表方法について、自社のウェブサイト又はアプリに目立つ形で掲載しなければならず、また、データ主体からの権利行使の連絡に対する全ての返答の中で明示しなければならないと規定している(DPDP規則9条)。
DPDP法上、データ受託者は、子ども(18歳未満※3)又は法定後見人のいる行為制限能力者の個人データを処理する前に、親権者又は法定後見人の検証可能な同意を、関連規則に定める方法により取得しなければならない(DPDP法9条)。
DPDP規則は、上記の同意の取得方法について、以下を規定している。
データ受託者は、親権者の検証可能な同意を取得するため、適切な技術的及び組織的措置を講じなければならず、また、法令上必要とされる場合、一定の情報を参照することにより、親権者と自称する個人が特定可能な成人であることを確認するための相当の注意を払わなければならない(DPDP規則10条)。
データ受託者は、行為制限能力者の法定後見人であるとする個人から検証可能な同意を取得する際、当該後見人が後見に関する適用法令に基づき裁判所等によって任命されたものであることを確認するための相当の注意を払わなければならない(DPDP規則11条)。
DPDP法上、中央政府は、特定のデータ受託者又は一定の種類のデータ受託者について「重要データ受託者(Significant Data Fiduciary)」として指定することができ、重要データ受託者に該当した場合には、データ保護オフィサー(Data Protection Officer)やデータ監査人の選任義務を負い、また、定期的なデータ保護影響評価、定期的な監査、及びその他関連規則で定める措置をとることとされている(DPDP法10条)。
DPDP規則は、上記の措置に関して、重要データ受託者は、重要データ受託者として通知を受けた日又は重要データ受託者として通知されたデータ受託者の区分に包含された日から12か月ごとに1回、DPDP法及びこれに基づく関連規則の規定の効果的な遵守を確保するため、データ保護影響評価及び監査を実施しなければならないと規定している(DPDP規則13条)。
DPDP法上、データ主体の権利として、個人データへのアクセス権、訂正・消去等を求める権利、苦情処理手段の提供を受ける権利、死亡又は心神喪失時の代理人を指名する権利等が規定されている(DPDP法11条から14条)。
DPDP規則は、上記のデータ主体の権利に関して、データ主体がDPDP法に基づく権利を行使できるようにするため、データ受託者及び同意管理人(該当する場合)は、そのウェブサイト若しくはアプリ、又はその両方において、以下の事項を目立つように公表しなければならないと規定している(DPDP規則14条)。
DPDP法上、中央政府は、特定の国又は地域へのデータ受託者による個人データの移転を制限することができる(DPDP法16条)。
DPDP規則は、上記に関して、中央政府が、外国又は外国の者・団体若しくは機関への個人データの移転に関して制限を課すことができ、データ受託者は、かかる制限を遵守することを条件に、個人データをインド国外へ移転することができると規定している(DPDP規則15条)※4。
DPDP法上、個人データの処理が研究、保存又は統計の目的のために必要な場合において、当該個人データが特定のデータ主体に関する決定のために使用されず、かつ、関連規則で定める基準に従って処理される場合は、DPDP法の規定は適用されないと規定されている(DPDP法17条2項(b))。
DPDP規則は、上記の「関連規則で定める基準」について、個人データの処理が適法な方法で実施されることや目的達成のために必要な範囲に限定されること等を確保するための適切な技術的及び組織的措置の実施を規定している(DPDP規則16条)。
DPDP法は、内容の多くが規則に委任されており、また、施行時期が公表されていなかったが、今般のDPDP規則の公表により、ルールの詳細や施行日が明らかになった。DPDP法及びDPDP規則におけるデータ受託者の義務は、基本的に2027年5月13日から施行されることになる。適用を受ける事業者においては、DPDP法及びDPDP規則の詳細を把握し、各規定の内容の遵守に向けた対応について具体的なスケジュールを検討して準備を進めていく必要がある。当事務所としても、日系企業の皆様に対して、DPDP法及びDPDP規則の遵守に必要な有益な情報を引き続き発信して参りたい。
※1
DPDP法の全文は、以下のリンクから確認することが可能である。
https://www.meity.gov.in/static/uploads/2024/06/2bf1f0e9f04e6fb4f8fef35e82c42aa5.pdf
※2
DPDP規則の全文は、以下のリンクから確認することが可能である。
https://www.meity.gov.in/static/uploads/2025/11/53450e6e5dc0bfa85ebd78686cadad39.pdf
※3
DPDP法2条(f)参照
※4
DPDP規則の当該条項について、英文としては、「Any personal data processed by a Data Fiduciary under the Act may be transferred outside the territory of India subject to the restriction that the Data Fiduciary shall meet such requirements as the Central Government may, by general or special order, specify in respect of making such personal data available to any foreign State, or to any person or entity under the control of or any agency of such a State.」となっており、実際にどの範囲で制限が課されるのかについては、引き続き動向を注視する必要があると考えられる。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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