・ オンライン登録の促進
本改正法案でも引き続き取引文書の登録というスタイルは変わらないものの、オンラインでの提出が認められるとともに、電子登録証明書の発行、取引文書のデジタル記録での管理などが予定され、さらには、他の記録管理システムとの連携も予定されている。
Publication
ニュースレター
インドの不動産法制の基礎~不動産登録制度について~(2025年2月)
書籍
『インドビジネス法詳説』(2025年10月)
講演・セミナー
『インドビジネス法詳説』出版記念セミナー(2025年11月)
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
インドの人口増加や経済発展に伴い、レジデンスやオフィスなどの不動産マーケットの規模は着実に拡大しており、日本企業にとっても魅力的な投資先の一つとなっている。インドにも不動産登録制度は存在するが、日本のように特定の不動産の過去の権利変動が一覧できる形で登録されているのとは異なり、過去の権利変動に係る取引文書がそれぞれ登録される形式となっている。そのため、調査の対象となる土地の権利関係について確認するには、理論的には、その原始的な取得者から現在の所有者まで権利移転が有効かつ適式になされているかを、当該土地に関して登録された取引文書により確認しなければならない。州によっては書類が現地の言語により作成されていることもあり、不動産取引そのものをサポートする現地法律事務所の他に、当該不動産が所在する州の法律事務所をリテインする必要がある場合があるなど、デュー・ディリジェンスの実施に際しては、時間と費用を要する場合が多い※1。
このような状況の中、現行法であるRegistration Act, 1908(以下「1908年登録法」という。)※2の全面改定として位置づけられているThe Registration Bill 2025(以下「本改正法案」という。)が2025年5月27日に公表された。本稿では、本改正法案の概要及び想定される実務への影響について概説する。
インドの農村開発省土地資産庁(Ministry of Rural Development Department of Land Resources)は、2025年5月27日に本改正法案を公表した※3・4。本改正法案は、1世紀以上にわたり運用されてきた現行法を大幅に変更するものであり、現代的なオンライン・ペーパーレス・市民中心の登録制度に適合させ、不動産の所有権や権利に関する紛争、権利帰属の不確実性を減少させることを意図するものとされている。
本改正法案は、全17章、86条で構成されており、主として以下の特徴を有する。
本改正法案でも引き続き取引文書の登録というスタイルは変わらないものの、オンラインでの提出が認められるとともに、電子登録証明書の発行、取引文書のデジタル記録での管理などが予定され、さらには、他の記録管理システムとの連携も予定されている。
1908年登録法においても、不動産の譲渡証書(sale deed)や貸借証書(lease deed)の登録が義務づけられているところ、本改正法案では、従前登録対象文書とされていた文書に加えて、登録対象文書の範囲が拡大される見込みである。登録が義務づけられる文書の種類が増えるため、不動産取引を行う際の登録手続の負担は増加する一方で、デュー・ディリジェンスを行う立場としては、不動産の権利確認が比較的容易になり、例えば、当該不動産に対して付されている抵当権を調査することが容易になる利点が考えられる。
登録文書への信頼性を高めるため、例えば、虚偽の情報に基づき登録された場合等には、裁定機関が登録の取消を行うことができるよう改正がなされる見込みである。この改正により、登録対象文書の有効性を争う機会が与えられ、登録された文書への信頼性が向上すると考えられる。
登録がなされる地域において一般に使用されている言語により文書が作成されていない場合には、翻訳文の添付を求めることができ、また、登録対象文書の様式を策定することができる旨が規定されている。さらに、取引完了のために複数の文書を登録する必要がある場合には、主たる文書についての登録手数料の他、付随する文書については名目上の手数料に抑えることで、登録の容易性を確保している。登録文書の登録へのハードルが下がることにより登録件数が増加し、不動産取引の安全性が高まることが期待される。不動産関係の調査にあたっては、登録文書の判読性や統一性が高められると考えられる。
現行法においては、州によっては登録文書へのアクセスが困難である場合や、文書が登録されていても不鮮明な場合もあるため、登録文書の判読や探索等に時間を要する場合も多く、デュー・ディリジェンスの不確実性を考慮した取引スケジュールを検討する必要があった。また、法定の期間内に譲渡証書(Sale deed)の登録がなされなかった取引の有効性が争われた事案※5に関し、インド最高裁判所は、2025年5月7日付けで、法定の期間内に取引文書が登録されなかった場合には当該取引は無効であるという1908年登録法の原則を確認し、法定の期間内に登録がされなかった取引の有効性を否定した※6。そのため、デュー・ディリジェンスにおいて、取引文書の登録の有無のみならず、当該登録が法定の期間内に行われたかを確認することの重要性も指摘されている。
本改正法案が施行されることにより、登録申請者にとっては法定期間内のオンライン登録が促進され容易になるとともに、不動産の権利関係を調査したい者にとって登録文書へのアクセスが向上することが期待される。また、登録文書の様式が策定された場合には、登録文書の内容の統一性が高まり、文書の理解がしやすくなると考えられる。
他方で、取引に応じて作成される不動産売買契約をはじめとする登録対象文書は、法の定める登録文書の様式から逸脱した形式で作成される場合もあると考えられるところ、様式と異なる形式で作成されていることを理由として、登録手続担当者が登録を拒否する又は登録に時間を要する事態が生じる可能性もある。本改正法案がパブリック・コメントを経てどの程度修正されるのか、実際に改正法が施行されることにより、実務にどの程度影響を与えるのかは不透明であるため、本改正法案の修正の有無や本改正法案が施行された後の実務動向については引き続き注意深く確認する必要がある。
※1
米国の不動産登録制度はインドと類似しているが、米国ではTitle Insurance(権利保険)が一般的であるため、かかるデュー・ディリジェンスのハードルがそこまで意識されていないが、インドでは類似の保険が一般化されていないため、かかるデュー・ディリジェンスのハードルが高くなっている。
※2
現行法であるRegistration Act, 1908(1908年登録法)に基づくインドの不動産登録制度の詳細については、洞口信一郎著「インドの不動産法制の基礎~不動産登録制度について~」NO&T Asia Legal Update アジア最新法律情報/NO&T Real Estate Legal Update 不動産ニュースレター(2025年2月)もご参照いただきたい。
※3
本改正法案の全文は、以下のリンクから確認することが可能である。
https://dolr.gov.in/document/department-of-land-resources-ministry-of-rural-development-invites-suggestions-on-draft-the-registration-bill-2025-from-public-within-a-period-of-30-days/
https://www.pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=2131546
※4
本改正法案公表後、2025年6月25日を期限としてパブリック・コメント手続に付されていたが、本稿脱稿時点で本改正法案は未施行である。
※5
1908年登録法23条に基づき、譲渡証書の締結から4ヶ月以内の登録が求められていた。
※6
Mahnoor Fatima Imran & Ors. V. Visweswara Infrastructure Pvt. Ltd. & Ors.(2025)
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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