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【From New York Office】NY LLCのニューヨーク州法に基づく実質的所有者情報の報告義務(アップデート)
塚本宏達、大橋史明(共著)
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米国の対中投資規制に関する規制案の公表(2024年9月)
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
2024年10月28日、米国財務省は、中華人民共和国(中国)、香港およびマカオへの特定の投資を制限する規則の最終版(以下「最終規則」といいます。)を公表しました。最終規則は、2024年6月に公表された規則案※1(以下「規則案」といいます。)に寄せられたパブリックコメントを反映し、一部の点において規則案から規制対象を明確化または限定しています※2。最終規則は、2025年1月2日に発効します。
本ニュースレターでは、最終規則の概要、規則案からの主な変更点、および日本企業への影響について解説します。
規制対象となる米国人(U.S. persons)の定義は、①米国市民および合法的永住権保持者、②米国法または米国内の法域の法に基づいて組織された事業体(そのような事業体の海外支店を含む)、ならびに③米国内に所在する個人を意味するとされています※3。なお、たとえ親会社が非米国法人であっても、米国内で設立された事業体は米国人に含まれます。
また、米国人が、米国人が直接行った場合に禁止される取引を、非米国人である事業体が行うことを「故意に指示すること」が禁止されています。「故意に指示する」とは、米国人が当該事業体の意思決定をするあるいは意思決定に実質的に参加する権限を有し、取引を指示、命令、決定または承認するために当該権限を行使することを指すとされています。規則案では、米国人が「役員、取締役または上級顧問であるか、その他上級レベルの権限を有する」場合にそのような権限を有するとされていましたが、最終規則では「役員または取締役であるか、執行責任を有する場合」に修正されています。また、最終規則では、当該規制の適用除外が明確化され、米国人が以下の行動を忌避した場合、「故意に指示」したことになりません。
加えて、米国人は、controlled foreign entity(以下「支配外国事業体」といいます。)※4に関して、以下の行為が義務付けられます。
米国人が「あらゆる合理的な措置」を講じたかどうかを判断するにあたって、米国財務省は、米国人と支配外国事業体との間での最終規則の遵守に関する契約の締結、米国人によるガバナンスまたは株主権の存在および行使、最終規則の遵守のための定期的なトレーニングや内部の報告要請の存在および実施、といった事項を考慮するものとされています※7。
上記の義務により、実質的には、米国親会社の米国外子会社にも対外投資規則の遵守が求められることとなります。
規制対象となるのは、米国人による、対象活動(covered activity)に従事する対象外国人(covered foreign person)との対象取引(covered transaction)です。このうち、対象活動の類型によって、取引が禁止されるprohibited transaction(以下「禁止取引」といいます。)と、取引について米国財務省への通知が必要となるnotifiable transaction(以下「通知取引」といいます。)があります。通知取引に該当する取引については、米国財務省に対して対象取引の完了後30日以内に通知をする必要があります。
対象活動に該当する業種は主に①半導体およびマイクロエレクトロニクス、②量子IT、そして③AIであり、具体的には、大要以下のような活動が該当します。
対象外国人とは、以下の3つのいずれかに該当する者とされています※8。
上記②のとおり、中国以外の国の事業体であっても中国子会社由来の収益等が50%以上を占める場合は対象外国人に該当することに留意が必要です。
対象取引とは、大要、米国人による直接または間接の、以下の行為を指します※11。
最終規則では、米国人が第三者を通じて対象取引を行った場合、間接的な対象取引としてみなされることを明確化しています※13。もっとも、例えば、中国にある会社の持分を取得する場合に、当該会社の中国子会社が対象活動に従事している場合の取扱いなど、どのような場合に間接的な対象取引となるのか、取扱いが明確ではない場面も考えられます。
また、担保付債務における持分担保の設定やそのような債務の取得自体は持分の取得にならない一方、担保権実行による持分取得は、2025年1月2日以前に担保設定された場合、または債務発行・取得時に担保持分が対象外国人のものと認識していなかった場合を除き、対象取引になる旨明確化しています※14。
これらの行為について、対象外国人であるかどうか、JVが対象活動に従事するかどうか、ファンドが懸念国の者に投資するかどうかについては、行為時に米国人が知っていたことが要件とされています。知っていたかどうかについては、実際の認識だけではなく、その可能性が高いことを認識していたことや、当該事由が存在することを知る理由があったことも含まれている点に留意が必要です※15。また、米国財務省は上記に関して投資家が「合理的な調査」(reasonable and diligent inquiry)を行ったかを確認するとしています。規則案に対するパブリックコメントにおいて、「知っていた」とされる場合の明確化を求めるコメントが多く、最終規則では以下のとおり、合理的な調査の要件についてさらに詳しく規定されています※16。
最終規則において事前クリアランス制度は設けられていないため、米国財務省は事後的に(法執行の段階で)米国人が「知っていた」かどうかについて判断を下すことになります。上記のとおり一定の明確化はされているものの、上記の手段を講じることが現実的でない場合もあり得、結局はケースバイケースの判断にならざるを得ないため、取引当事者は慎重に行動する必要があります。
最終規則では、①上場証券への投資、②Investment Company Act of 1940に基づくInvestment Company(投資会社)が発行する証券への投資、③200万ドル以下の特定のLP投資、または資本が禁止取引もしくは通知取引に使用されないという契約上の保証がある場合のLP投資、または④対象外国人の持分や資産取得権を付与しないデリバティブ取引を対象取引から除外しています※17。なお、以上に関して、標準的な少数株主保護の権利(一定の重要事項への拒否権など)を超える権利を米国人に付与する投資については、例外として認められないことが明確化されています。また、米国親会社から海外子会社への特定の企業内資金移転、最終規則の発効前に行われたコミットメント済みの未払込資本投資、および株式報酬やストックオプションの形態による雇用の報酬も例外として扱われます。
さらに、最終規則では、米国人は、National Interest Exemption(国益に基づく免除)を申請することが可能とされています※18。免除が認められるかどうかはケースバイケースの判断になり、米国財務省は免除が認められるケースは稀である旨示唆しています。
また、財務長官は、商務長官および国務長官と協議の上、対象取引からの除外を追加することができます(除外の指定を取り消す権限があることも最終規則では明確化されています。)※19。
最終規則において禁止されている行為を行うこと、最終規則において求められる行為を指定された期間内および指定された方法で行わないこと、最終規則が要求する情報を米国財務省に提出する際に「著しく虚偽または誤解を招く」(materially false or misleading)説明を行うこと、禁止行為を回避すること、または回避を目的とする行為を行うことが罰則の対象となります※20。
最終規則の違反については、International Emergency Economics Powers Actの第206条に基づき、368,136ドルまたは違反の根拠となった取引の取引額の2倍のいずれか高い方を上限とする民事罰、および、故意の違反行為(故意の共謀または違反行為の幇助を含む)の場合は、最高100万ドルの刑事罰もしくは最高20年の禁固刑、またはその両方が課されます※21。なお、米国財務省はこのような民事罰を課し、また刑事罰のため違反を米国司法省に通知する権限を有します※22。
米国財務長官は、関係省庁の長と協議の上、最終規則の発効日以降に行われた禁止取引を無効にし、あるいは処分を強制するための措置をとる権限を有します※23。
米国人が実際の違反または違反の可能性を米国財務省に自主申告した場合、米国財務省は、罰則の賦課の可能性を含め、適切な対応を決定する際の緩和要因として当該申告を考慮するものとされています※24。
最終規則は基本的に米国人や米国企業を規制対象とするものですが、日本企業であっても、米国人が中国関連の投資の意思決定に関わる可能性がある場合は、規制対象となる取引に米国人が関与しないように留意する必要があります。また、米国企業はその支配下にある外国企業に禁止取引を行わせないようにする義務を負い、当該外国企業が通知取引を行う場合は通知をする必要があるため、米国企業の日本子会社においては、対象取引に該当する取引を行うことにならないか、確認する必要があります。最終規則において、規制対象となる取引に該当するか否かを確認するために行うべきプロセスが一定程度明確となりましたが、今後の実務動向を注視し、どのような対応が求められるのかを検討する必要があります。
また、日本企業が投資を受ける場面では、中国子会社が収益、純利益、資本支出または営業費用の50%超を占めており、規制対象となる半導体事業等に従事している場合は、日本企業であっても対象外国人に該当し、米国企業からの出資等について制限を受ける可能性があります。中国事業が一定の割合を占め、関連する産業に従事している日本企業においては、米国関連の投資家から対象取引に該当しないことについての情報提供や表明保証が求められる可能性があります。
加えて、最終規則の施行後、通知取引の通知内容等を踏まえて、米国政府が対外投資規制の対象を更に拡大する可能性もあり、今後の展開にも注意する必要があります。
※1
規則案の内容については、当事務所発行の米国最新法律情報No.126「米国の対中投資規制に関する規制案の公表」(2024年9月)をご参照ください。
※2
最終規則に関する米国財務省のプレスリリースは、https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy2690、最終規則の全文は、https://www.federalregister.gov/documents/2024/11/15/2024-25422/provisions-pertaining-to-us-investments-in-certain-national-security-technologies-and-products-inをご参照ください。
※3
31 CFR § 850.229
※4
米国以外でまたは米国以外の国の法律に基づいて設立された事業体であって、米国人が「親」(parent)であるものを指し、「親」とは、大要、議決権持分の過半数を直接もしくは間接に支配する場合、ジェネラルパートナーもしくはマネージングメンバーである場合、またはプール型投資ファンドの投資アドバイザーとして行動する場合を指します(31 CFR § 850.219)。
※5
31 CFR § 850.302(a)
※6
31 CFR § 850.402
※7
31 CFR § 850.302(b)
※8
31 CFR § 850.209
※9
懸念国の者(person of a country of concern)とは、大要、①懸念国の市民または永住者であって米国市民または永住者でない者、②懸念国に主たる事業所があるあるいは懸念国の法律に基づき設立された事業体、③懸念国政府および当該政府が議決権の50%以上を保有する事業体、ならびに④①から③のいずれかが直接または間接に議決権の50%以上を保有または支配する事業体、と定義されています(31 CFR § 850.221)。また、懸念国とは、中華人民共和国、香港およびマカオを指します。
※10
最終規則において、5万ドルの要件が追加されています。
※11
31 CFR § 850.210
※12
規則案では、すでに以前から対象活動に従事していた対象外国人は例外として扱われていましたが、最終規則ではこの例外は削除されています。
※13
31 CFR § 850.210 Note 1
※14
31 CFR § 850.210 Note 2
※15
31 CFR § 850.216
※16
31 CFR § 850.104
※17
31 CFR § 850.501
※18
31 CFR § 850.502
※19
31 CFR § 850.503
※20
31 CFR § 850 Subpart F
※21
31 CFR § 850 Subpart G
※22
31 CFR § 850.702
※23
31 CFR § 850.703
※24
31 CFR § 850 Subpart G
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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