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経産省「経済安全保障経営ガイドライン」(案)の公表
大澤大、湯浅諭、木谷達由、森下茉彩(共著)
- 国際通商・経済制裁法・貿易管理
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トランプ政権による相互関税の導入(2025年4月)
特集
経済安全保障
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき第2次トランプ政権が2025年2月以降順次課している全世界からの輸入品に対する相互関税及びカナダ・メキシコ・中国産品に対する違法薬物の流入阻止等を名目にした追加関税(以下、「相互関税等」ともいいます。)について、その法的根拠の適法性が法廷で争われています。IEEPAを根拠とした対中国産品の追加関税は、比較的早くから適用・徴収が開始されました。もっとも、今後仮に米国連邦最高裁判所においてその適法性を否定する判断が出た場合でも、通常の納付済み関税の還付の手順に照らせば、相互関税等を納付した個々の輸入者として、何ら積極的な法的アクションを起こすことなく当然にその還付を期待できる訳では必ずしもありません。
仮に、第2次トランプ政権側が法廷で敗れ、徴収済みの相互関税等を輸入者側に返還しなければならないこととなれば、その総額は900億ドルに上るとの試算もなされており※1、その影響は甚大となり得ます。
本ニュースレターでは、関連するキーとなる米国の関税ルールや仕組みも紹介しながら、相互関税等の還付請求を行うためにおさえておくべきポイントを簡潔に紹介いたします。
米国に貨物を輸入した場合、輸入時に輸入申告が行われますが、米国税関・国境警備局(CBP)が輸入貨物の申告内容を確認し、最終的に関税分類・課税価格・関税額などを確定する手続きを、“liquidation of entry”(輸入申告の確定)といいます。
輸入通関時に納付される関税は、申告者の算定ベースによる暫定的なものであり、その段階での関税額はいわば仮計算のステータスであるといえます。CBPは、貨物の通関後、個別のケースごとに必要に応じて、書類審査、検査、関税分類や課税価格といった申告内容の確認を事後的に行います。CBPがこうしたプロセスを経て行う輸入申告の確定の決定は最終的なものであるとともに法的拘束力を有しており、当該決定をもって関税額等が確定されます。※2
通常のCBPの実務では、貨物の輸入申告があってから1年よりも短い期間内にこの輸入申告の確定を行いますが、CBPによるアクションがない場合でも、輸入申告時から1年が経過した時点で、輸入申告が確定されたとみなされます。※3
つまり、一般的に、輸入者が一旦納付した関税を争い、事後的にCBPから取り戻すためには、関税額等が確定されてしまう前に、CBPに対して法的アクションを起こす必要があるといえます。
IEEPAに基づいて徴収された相互関税や追加関税も関税の一種であることから、それらとの関係でも、輸入者は、米国連邦最高裁判所の判断によっては、納付した関税の還付をCBPに対して請求できる可能性があります。しかし、輸入申告の確定により当該還付請求権について争うことができなくなる事態は、回避しなければなりません。
当該確定の手続を停止(“suspend”)するためには、米国関税法上、裁判所の命令が一つの有効なオプションだとされています。すなわち、輸入者は、連邦法上の関税事件について管轄を有する米国国際貿易裁判所(CIT)に、相互関税が違法であり仮に納付済みの税額の返還を求めるとの訴えをCBPに対して提起するとともに、CBPが輸入申告の確定の手続を停止しなければならないとの仮処分命令を出すよう、CITに申し立てることができます。※4
ところで、米国連邦裁判所の下級審では、トランプ大統領がIEEPAを根拠にして実施している相互関税及び追加関税が違法であるとの判断が出されています。すなわち、連邦巡回区控訴裁判所は2025年8月29日、V.O.S. Selections, Inc. v. Trumpの判断において、関税を課す権限は合衆国憲法上議会に属していること、また、「関税」等の文言が含まれていないIEEPAが、大統領に無制限の関税賦課権限を付与しているとは考えられないことなどを理由に、IEEPAに基づく相互関税及び追加関税の賦課を違法であると判断しました。
その後事件は米国連邦最高裁判所に上訴され、9月9日に上告受理、11月5日に口頭弁論が実施されています。法廷での議論は、大統領に付与されている外交権限と議会に付与されている課税権限という合衆国憲法の根本原理である三権分立の原則にも及んでおり、政権側の主張の一部に対して、判事からは厳しい指摘も出されました。
相互関税等の還付請求をめぐっては、今後の米国連邦最高裁判所の判断が注目されるところであり、IEEPAに基づく相互関税等の適法性如何だけでなく、具体的にどのようなスコープの、また、どのような条件がついた判断がなされるのかという点についても、判断内容の詳細を注視する必要があります。仮に、違法判断が出る場合でも、その影響は甚大であるため、還付自体への一定の制限や、時間的猶予など、条件が付される可能性も否定はできません。
加えて、実務上、上記のように、関税法上の一般ルール、特に輸入申告の確定の点を念頭においた、還付請求権を保全するための法的アクションが必要になる場合もあると考えられることから、2025年2月以降米国に商材を輸入した在米企業におかれては、輸入時期やIEEPA相互関税・追加関税の納付額等の個別具体的な事情を踏まえて、適切な法的対応を検討する必要が生じます。輸入申告から1年後のタイミングで輸入申告の確定があったとみなされる場合もありますので、タイミングには留意が必要であり、今後の関連動向を注視し、タイムリーで的確な対応が求められる問題だといえるでしょう。
※1
Committee for a Responsible Federal Budgetウェブサイト参照。
※2
なお、輸入申告の確定がなされた場合でも、例外として、それから180日間に限り、輸入者は、“protest”(異議申立)をすることで、一定の限定された事項について、CBPの決定を争うことが許されています(19 U.S.C. § 1514)。しかし、この手続ではCBPが判断主体であり、その行為の法的根拠となった大統領令それ自体の適法違法を判断することはできないと理解されています。そのため、相互関税との関係では、その法的根拠である大統領令の違法性を当該“protest”手続で争うことはできません。
※3
19 U.S.C. § 1504(a)(1)(A)。
※4
このように仮に納付済みの関税の返還を求める請求権の保全を求める手法は、1974年通商法第301条や1962年通商拡大法232条に基づく追加関税との関係でも用いられており、IEEPAに基づく相互関税との関係でも、日系企業の現地子会社を含む米国内の企業により用いられています。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
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