論文/記事
Chambers Global Practice Guides International Trade 2026 Japan – Law & Practice
(2025年12月)
鹿はせる、近藤亮作、小泉泰聖(共著)
- 国際通商・経済制裁法・貿易管理
- M&A
- M&A/企業再編
Publication
ニュースレター
CFIUS審査に関する新たな大統領令及びガイドラインの対米投資に与える影響(2022年11月)
CFIUSの調査・法執行権限を強化する規則案の公表(2024年5月)
特集
経済安全保障
※本ニュースレターは情報提供目的で作成されており、法的助言ではありませんのでご留意ください。また、本ニュースレターは発行日(作成日)時点の情報に基づいており、その時点後の情報は反映されておりません。特に、速報の場合には、その性格上、現状の解釈・慣行と異なる場合がありますので、ご留意ください。
2024年7月23日、対米外国投資委員会(Committee on Foreign Investment in the United States、以下「CFIUS」といいます。)は、2023年の活動に関する年次報告書(以下「本報告書」といいます。)※1を公表しました。年次報告書は、国防生産法(Defense Production Act of 1950)第721条(m)の要請に基づき、CFIUSが受領した届出の件数、審査・調査の結果、その他の活動に関してCFIUSの議長が毎年作成・公表するものです。年次報告書からは、CFIUSの審査や法執行への最近の姿勢に関する多くの示唆を得ることができます。
そこで、本ニュースレターでは、本報告書の主な内容を解説するとともに、今後のCFIUS対応において留意すべきポイントを考察します。
本報告書によれば、2023年にCFIUSは109件(2022年は154件)の簡易届出(declaration)を受領しています。受領された簡易届出のうち21%に当たる20件(2022年は32%に当たる50件)において、CFIUSは結論に至ることができなかったとし、当事者に正式届出を行うことを要請しています(2021年から2023年の過去3年間を平均すると正式届出の要請率は約25%)。簡易届出に関しては、簡易届出の審査期間(30日)後にCFIUSから正式届出を行うことを要請されると、最初から正式届出を行った場合と比べてクリアランス取得までに結果としてより長い時間を要することになるケースが多いのではないかという懸念が、簡易届出制度導入当初から認識されていました。しかし、上記過去3年間の統計からは、比較的多くの簡易届出に対してクリアランスが出されている傾向を窺うことができ、短期間でのクリアランス取得に向けた現実的な選択肢として簡易届出を利用することが十分検討に値するようになってきていると評価できます。本報告書によれば、2021年から2023年の過去3年間の簡易届出の国別利用数は、多い順に、カナダ(総数の13%に当たる57件)、日本(総数の9%に当たる40件)、ドイツ(総数の7%に当たる32件)、韓国(総数の7%に当たる32件)となっており、日本を含む米国の友好国の企業による国家安全保障上の懸念が低い取引等については、簡易届出の利用を検討することが特に有用と考えられます。
本報告書によれば、2023年にCFIUSは233件(2022年は286件)の正式届出(notice)を受領し、54%に当たる128件(2022年は57%に当たる162件)が一次的な審査期間(45日)を終えた後に二次的な調査期間(追加で45日)に移行しています。また、正式届出全体の25%に当たる57件(2022年は31%に当たる88件)について当事者による取下げが行われており※2、このうち43件(2022年は53件)について、当事者による再度の正式届出が行われています。すなわち、クリアランスを得るまでの期間が(審査期間と調査期間の合計日数である)90日を超えるケースも珍しくないといえ、国家安全保障上の懸念がありCFIUSリスクが高いことが想定される取引においては、クロージングまでの十分な期間を確保するスケジュールを設定することが引き続き重要になるといえます。
CFIUSが国家安全保障上のリスクがあると判断した場合、CFIUSは当事者に対して影響緩和措置を講ずることを求めることができ、その場合、米国政府と当事者との間で、影響緩和措置について合意するNational Security Agreementを締結することを条件に、クリアランスが出されることになります。本報告書によれば、CFIUSは、2023年に行われた届出の21%に当たる35件(2022年は23%にあたる41件)について、影響緩和措置を講ずることを求めました。2021年及び2020年において影響緩和措置が要請された件がそれぞれ全体の10%、9%であったことと比較すれば、2022年から2023年の過去2年間は影響緩和措置の受諾がクリアランス取得において必須となるケースが増加傾向にあるといえます。さらに、近時公表された規則案※3において、影響緩和措置に関する回答期限の設定が定められていること(CFIUSから提案のあった条件に関する当事者の回答期間が実質的に短縮されます。)や影響緩和措置違反の場合の罰金が増額されていることを踏まえれば、届出に先立ち、影響緩和措置を求められる可能性の程度や受入れ可能な影響緩和措置の内容を検討しておくことがより重要になると考えられます。
CFIUSは影響緩和措置の遵守に関する法執行及びモニタリングを強化している旨を公言しており※4、具体的にはオンサイトの立入検査、当事者及び第三者から提出される報告書のレビュー等を行っています。本報告書によれば、2023年には43件のサイトビジットが行われました。影響緩和措置の違反があった場合、CFIUSの法執行と罰則に関するガイドライン(CFIUS Enforcement and Penalty Guidelines)に従って罰金を課すことが適切かどうかが判断されることになるため※5、すべての違反案件について罰金が課されるわけではないものの、2023年には影響緩和措置の違反があった件のうち4件について罰金が課されています。2022年以前の過去約50年でCFIUSが罰金を課したのがわずか2件であることに照らしても、2023年の4件の罰金処分は、影響緩和措置に関するモニタリング及び執行法を強化している直近CFIUSの姿勢の現れといえます。2024年に入ってからも、CFIUSのウェブサイトにおいて、3件の罰金処分の事例が公表されており、うち2件は影響緩和措置の違反に関するものです※6。1つ目の事案は、T-MobileとSprintの合併案件に関連するものであり、T-Mobileは当該合併案件に関連して2018年にCFIUSとの間でNational Security Agreementを締結していましたが、T-MobileがNational Security Agreementに違反して機密データへの不正アクセスを防止するための適切な措置を講じず、一部の不正アクセス事例をCFIUSに速やかに報告しなかったことが、国家安全保障上の損害をもたらしたと認定され、T-Mobileに対して6,000万ドルの罰金が課されたものです。2つ目の事案は、CFIUSとの間でNational Security Agreementを締結していた企業の支配株主が当該企業の独立取締役全員の解任を行った結果、National Security Agreementに違反して、コンプライアンス監督責任を負うSecurity Directorが欠員となり、またgovernment security committeeが機能不全となったため、国家安全保障上のリスクを増大させたと認定され、当該企業に対して850万ドルの罰金が課されたものです。
CFIUSの議長を務める米国財務省のAssistant Secretary of the Treasury for Investment SecurityであるPaul Rosen氏は、CFIUSに届出がされなかった取引の調査機能を強化するためのリソースを増強した旨公言しており※7、本報告書によれば、CFIUSは、行政機関同士の連携、市民からの口コミ、国家機密リソース、メディア、任意の開示、データベース等の各種リソースを駆使して、届出がされなかった取引の特定に注力しているとのことです。2023年に、CFIUSに届出がされなかったもののCFIUSが検討した件は何千件にも上りますが、そのうち60件について正式な問合せが行われ、更にそのうち13件について当事者に対して届出が要請されました。正式な問合せの対象となった件のうちCFIUSによる届出の要請の対象となった件の比率は、2021年が6%、2022年が13%、2023年が22%と、過去3年間で年々上昇しており、近時CFIUSは問合せ対象を絞って効率的に調査を行っているものと考えられます。また、2023年に、CFIUSは届出義務違反の調査を複数行い、いくつかの件で実際に義務違反があったものの、当該件の事情に鑑みて罰金を課していない、としています。このように、CFIUSが届出がされなかった取引の調査を強化していることから、取引当事者としては、CFIUSへの届出義務があるか、任意に届出をした方がよいか、慎重な検討が求められます。
本報告書からは、昨今のCFIUSの活発な法執行状況が窺えるとともに、米国投資を検討する際には早期にCFIUS届出の要否を検討し、場合によっては影響緩和措置についても精査しておくことが有用であることが読み取れます。過去のニュースレターでもお伝えしておりますとおり※8、CFIUSによる審査において重点的に考慮すべき事項を定めた大統領令(Executive Order on Ensuring Robust Consideration of Evolving National Security Risks by the Committee on Foreign Investment in the United States)や法執行と罰則に関するガイドラインの制定、CFIUSによる監視・執行活動のための人員の増強等も踏まえると、今後もCFIUSの法執行はより活発化し、そのような早期検討の重要性はますます高まっていくものと思われます。
※1
Committee on Foreign Investment in the United States: Annual Report to Congress for CY 2023 (July 23, 2024)
https://home.treasury.gov/system/files/206/2023CFIUSAnnualReport.pdf
※2
当事者は、CFIUSが認めた場合に限り、正式届出を取り下げることができます。取下げの理由は様々ですが、最も多く見られる理由としては、CFIUSによる国家安全保障上の懸念を審査期間及び調査期間中に払拭することができず、当事者がCFIUSによる影響緩和措置の提案の検討に追加的な時間を要する場合に、取下げを行い、準備ができた段階で再度正式届出を行うというものがあります。
※3
当事務所発行の米国最新法律情報No.119「CFIUSの調査・法執行権限を強化する規則案の公表」(2024年5月)において、影響緩和措置に関する回答期限の設定、罰金の範囲・金額等の拡大に係る規則案の概要について解説しています。
※4
たとえば、本報告書に関するプレスリリースでは、CFIUSが今後これまで以上に権限の執行等に注力する旨述べられています。
※5
当事務所発行の米国最新法律情報No.81「CFIUS審査に関する新たな大統領令及びガイドラインの対米投資に与える影響」(2022年11月)において、CFIUSの法執行と罰則に関するガイドラインの概要について解説しています。
※7
Remarks by Assistant Secretary for Investment Security Paul Rosen at the Second Annual CFIUS Conference (September 14, 2023)
https://home.treasury.gov/news/press-releases/jy1732
※8
当事務所発行の米国最新法律情報No.81「CFIUS審査に関する新たな大統領令及びガイドラインの対米投資に与える影響」(2022年11月)において、CFIUSの法執行と罰則に関するガイドラインの概要について解説しています。
本ニュースレターは、各位のご参考のために一般的な情報を簡潔に提供することを目的としたものであり、当事務所の法的アドバイスを構成するものではありません。また見解に亘る部分は執筆者の個人的見解であり当事務所の見解ではありません。一般的情報としての性質上、法令の条文や出典の引用を意図的に省略している場合があります。個別具体的事案に係る問題については、必ず弁護士にご相談ください。
論文/記事
(2025年12月)
鹿はせる、近藤亮作、小泉泰聖(共著)
ニュースレター
大澤大、湯浅諭、木谷達由、森下茉彩(共著)
ニュースレター
塚本宏達、近藤亮作、尾島灯、木原慧人アンドリュー(共著)
ニュースレター
小川聖史、大澤大(共著)
ニュースレター
塚本宏達、大橋史明(共著)
書籍
勁草書房 (2025年12月)
井上聡(共著)
メディア
(2025年12月)
大久保涼(インタビュー)
ニュースレター
松本岳人
ニュースレター
塚本宏達、大橋史明(共著)
書籍
勁草書房 (2025年12月)
井上聡(共著)
メディア
(2025年12月)
大久保涼(インタビュー)
ニュースレター
塚本宏達、近藤亮作、尾島灯、木原慧人アンドリュー(共著)
ニュースレター
塚本宏達、大橋史明(共著)
書籍
勁草書房 (2025年12月)
井上聡(共著)
メディア
(2025年12月)
大久保涼(インタビュー)
ニュースレター
塚本宏達、近藤亮作、尾島灯、木原慧人アンドリュー(共著)